2013年05月31日

コリドラスのなかまたち genus Corydoras

genus Corydoras

初めて飼った熱帯魚はピラニアで、阿倍野の近鉄百貨店の屋上のペットコーナーで買ってもらった。当時はピラニアにこそ興味があるのであって、他の熱帯魚たちはあまり眼中になかった。でもピラニアを飼うために熱帯魚の本を買ってもらい、それで勉強するうちに「普通の」熱帯魚も飼いたくなった。いよいよ水槽を増やしていいよということになり、父が会社の近くの「エム」というホームセンターのペットコーナーで、売っている魚の名前と値段を片っ端からメモして帰ってくれた。それからは毎日、そのリストを眺めながらどれを何匹買うかのシミュレーションをして過ごした。あれを3匹、これを5匹、そうするとこれくらいの値段になるから残りは…というふうに。その気持ちの昂り、頭に浮かぶ光景は、20年以上経った今でも心のうちに簡単にそっくり再現できる。

その後初めて「エム」に行った時に買ってもらった本が今も手元にある。『熱帯魚図鑑』、1991年5版。この本は、熱帯魚から気持ちが離れていった高校卒業から26歳ごろの間を経ても、ごく自然に身近にあり続けた。一人暮らしの引っ越しの際に、実家に送り返したことはあったかもしれない。でも気づくと手元に取り戻していた。魚に対する知識と、何より思い入れの深さ。この本を開くと、水槽がずらりと立ち並ぶ大きくて暗い部屋、つまり水族館のような場所で、たったひとりシンと魚と向き合っているような気持ちになる。魚との対話を積み重ねきった人にしか書きえない、はっきりと人格を持った言葉が、この本にはぎっしりと詰まっている。

たいていの図鑑がそうであるように、この本も概ね分類学にしたがって魚を括り、並べている。括られた仲間のひとつひとつを眺めるごとに、違った楽しみ、湧きだす感情がある。南米のカラシンはポピュラー種が多くて、熱帯魚店の水槽とそのガラス面に直接マーカーで書かれた名前、値段を思い出してわくわくする。アジアのコイの仲間は屋台が立ち並ぶ土埃の多い街並みと、そこを流れる茶色い小川を想像させるし(完全に勝手な想像だ)、アフリカの魚は特異な水質を好むためになかなか手を出しづらいこともあって、海の魚のような遠い憧れをかきたてる。

コリドラスの仲間は、みな似たような体型なのにやはり種によって独特の「顔つき」と多彩な紋様を持っている点、そして著者がとりわけ種ごとの入手しやすさや輸入量に言及している点が、蒐集欲を刺激した。

●コリドラス・エベリナエ(絵の上段中央)
「…輸入されるアルクアートゥスの何千匹に1匹混じっているかどうかというほどで稀少な魚である。めったに見ることができない種類として知られている。産卵させるにも入手が困難なため、望めない。」

●コリドラス・シクリ(絵の下段右)
「最近ではあまり見かけられなくなった種だが、ショップなどでもし見つける機会があったら千載一遇のチャンスだ。ぜひ、この魅力あるコリドラスの産卵に挑戦してみたい。」

こんな言葉を並べられて心が躍らないわけがない。いまだに「エベリナエ」という片仮名の並びを目にすると、とても手の届かない半ば幻のような宝物を眺める気持ちになってしまう。


 
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2013年05月24日

カエルアンコウとそのなかまたち genus Antennarius

genus Antennarius

カエルアンコウの仲間は見た目も仕草もえらく可愛くて、思わず表情が緩んでしまう。ゴロンと丸い体に、少し開いたままの大きな"へ"の字型の口と円らな目。その名の通り、ヒキガエルみたいなどん臭い歩き方で海底をよたよた移動する。(英名もfrog fishだ。)
魚がひれを使って海底を歩くように移動すること自体は珍しくないけど、カエルアンコウの場合は歩くことに身体が特化したために
●胸びれに「ひじ」的な部位がある。
●胸びれだけでなく、腹びれまで歩くための脚みたいになってる。
のがスゴい。そんな脚(ひれ)を動かすたびに、皮膚がぶよっとした質感で伸び縮みするのも、とても両生類っぽい。

でも古くからこの魚のことをよく知っている人には、なかなかしっくりこない名前らしい。2007年にカエルアンコウと改名されるより前は、イザリウオと名乗っていた。そういえば子どものころに図鑑でその名前を見た記憶がある。足を動かさずに身体を地につけたまま移動する「いざる」という言葉が、現代では差別的なニュアンスのある表現だとして改められたとのこと。

ただ、イザリウオの由来には別の説もある。アンコウの仲間らしく、彼らも頭に擬似餌のついた釣り竿を持っていて、それで餌の小魚をおびきよせる。その姿をもって「漁り魚」と呼んだらしい。なんとも趣のある名前だけれど、実際に彼らが擬似餌を動かす姿を目の当たりにすると、少しギョッとする。擬似餌はあまりにもゴカイのようで生々しいし(種類や個体によって形は違うみたい)、その動かし方には小魚をおびき寄せようという明確な意図が感じられて、「悪魔の手招き」のように見える。可愛らしく見えるけど、やっぱり彼らも過酷な海の環境を生き抜いてきた、したたかで逞しい命の結晶なのだ。


 
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2013年05月17日

防波堤周りの幼魚たち juvenile fish around breakwaters in Japan

juvenile fish around breakwaters in Japan
(上段、左から)マアジ Trachurus japonicus/ ムラソイ Sebastes pachycephalus pachycephalus / トラフグ Takifugu rubripes
(中段、左から)クジメ Hexagrammos agrammus / シロメバル Sebastes cheni / マダイ Pagrus major
(下段、左から)カサゴ Sebastiscus marmoratus / マサバ Scomber japonicus / カワハギ Stephanolepis cirrhifer


防波堤で釣りをしていたころ、釣れるのは種類が何であれ7,8cm〜15cmぐらいの小魚が多かった。大きな魚の子どもか、でなければそもそもその程度の大きさにしかならない小型種だ。だから、釣って手に取って、バケツに泳がせて眺め、持ち帰って水槽で飼った魚たちは、みな小魚らしい容姿をしていた。体に対して目がぐるりと大きく、全体にみずみずしい透明感があった。

一般に浅い海の魚は小さく、深い海のは大きい。これは釣りをしていると体験的に感じることだし、生態学のような学問的な見地からもきっと言えることだと思う。小魚が多い大阪の海の防波堤周りの多くは、直下の水深が4〜5メートルほどだった。身長170cmの人が縦に3人分、マンションの2階部分までぐらいの高さだろうか。そう考えると意外に浅いところで釣りをしていたんだなと思う。底の見えない海におもりを落としているので、感覚的にはもっと深いところに仕掛けを送っているつもりだった。

4〜5メートルの深さの海ってどんな感じなんだろう、それを疑似体験するために「大体あのへんが5mぐらいの高さかな」という目星をつけながら街を歩いてみる。目星をつけたら、目の前の街の風景はそのままに、自分は白い陽の光が差し込む海の底に立っているんだと想像する。そうすると、昔自分が釣り上げた小さな魚たちが目の前を泳ぎ始める。そこの段差の陰にはカサゴが身を潜めていそう、そっちの植え込みの中にはアイナメがいる。このマンションの外壁にはこのへんにカキ殻がついていて、クロダイの子が餌を探していそう。

そんな遊びをしながら街を歩くと、次に釣りに行くときにはもうちょっと釣れそうな気がしてくる。



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2013年05月10日

タキベラ属の幼魚 juveniles of the genus Bodianus

juveniles of the genus Bodianus
(上段、左から)キツネベラ Bodianus bilunulatus / ケサガケベラ Bodianus mesothorax / スジキツネベラ Bodianus leucostictus
(中段、左から)シマキツネベラ Bodianus masudai / タキベラ Bodianus perditio / ヒレグロベラ Bodianus loxozonus
(下段、左から)モンツキベラ Bodianus dictynna / ヒオドシベラ Bodianus anthioides / スミツキベラ Bodianus axillaris


たいていの哺乳類の子どもが可愛らしいのと同じように、魚の子どもにも思わず身悶えしてしまうような愛くるしさがある。目ばかりぐるりと大きくて頭でっかちだけれど、ひれもえらも一丁前に大人と同じようなのを備え持っていて、生意気な顔で餌をつついたり欠伸をしたりする。そして透明感がすごい。人間の赤ちゃんと一緒で、まだ外界の刺激にさらされていない生まれたての瑞々しさがある。

タキベラの仲間は、子役が粒ぞろいだ。分類上、同じ「属」に属する魚たちの幼魚がこんなにもバリエーションに富んで、しかもそれぞれ可憐で美しいとなると、図鑑的に並べて眺める愉悦は深い。先日図書館で借りてきた『ネイチャーウォッチングガイドブック 海水魚』(誠文堂新光社)の著者もきっとそう感じていたのに違いない、タキベラ属は幼魚の写真入りで手厚く網羅されている。水中写真を撮る方の間でも人気の高い仲間らしく、いろんな方のブログでタキベラ属の幼魚たちの写真を見かける。

可憐な幼魚と、どっしりと重厚な成魚のギャップも魅力的だ。ベラというと、靴べらのような滑らかな形をして(それが語源なのかどうかは知らない)、ひらひら泳ぎ回っておちょぼ口で釣り餌を掠め取るキュウセンという種がまず頭に浮かぶけれど、タキベラの仲間たちは印象が違う。貫録のある体つきに、犬歯的な鋭い歯が突き出した大きな口、太い声が出そうな喉の広さ。特にキツネベラはその名に相応しく、尖った吻に大きく裂けた口が肉食獣を思わせて、幼いころの面影は腰に範囲を狭めて残された黒斑ぐらいしか見当たらない。


 
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2013年05月03日

水玉模様の魚 polka-dot fish

polka-dot fish
(上段、左から)チョウチョウコショウダイ Plectorhinchus chaetodonoides / マンジュウイシモチ Sphaeramia nematoptera / テングカワハギ Oxymonacanthus longirostris
(中段、左から)ミナミハコフグ Ostracion cubicus / サラサハタ Chromileptes altivelis / クロハコフグ Ostracion meleagris
(下段、左から)モンガラカワハギ Balistoides conspicillum / ルリホシスズメダイ Plectroglyphidodon lacrymatus / イロカエルアンコウ Antennarius pictus


生き物の図鑑といえば、基本的には分類学に基づいた整理がなされている。けれども、決してそれがすべてではない。種の網羅と同定を目的とするのでなければ、図鑑の切り口は人それぞれ何だってよくて、実に無限にあるはずだ。

「水玉模様の魚」を集めてみようと思った。いくらでもいると思って挙げてみたら、案外5、6種のところでウッと詰まった。絵に描く以上はそこそこ華やかな見た目のがいいし、淡水魚と海水魚を混ぜて描くのは気持ちが悪いから海水魚限定。さらに、あまりにも実寸が違うものを同じような大きさで描くのも違和感があるから、ジンベイザメみたいなのはナシ。
そうやって考えてみると、例えば縞模様の魚に比べて、水玉のは少ないのだと思った。確かにシマウマみたく周囲の環境に溶け込みやすい縞模様と違って、目立つ水玉は捕食者の目を欺くのには向いていなさそう。厳しい種間競争を勝ち抜くには縞模様の方が有利なのかもしれない。

水玉に限らず、また魚に限らず、生き物の模様には共通の要素がある。ヒョウ柄が「本家」ヒョウだけでなく、広くさまざまな生き物に着用されているように。そういう模様の形成には数学的に解き明かされるパターンがあるのだと、チューリングという学者が言ったそうだ。
自然には普遍的な法則があるらしい。人間の瞳と銀河との類似に驚くのは、ものすごいスケールの大きさでその存在を突きつけられたような気になるからだ。さまざまな生き物たちがチューリングのパターンを共有していることにも、それと同じ驚きと感歎がある。


 
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