2013年10月25日

モツゴ Pseudorasbora parva

Pseudorasbora parva

パンの耳を袋いっぱいに詰めて店先に置いてあるパン屋さんを見ると、父がそれを持って池のほとりの斜面を降りてくる20年前の姿がいつも頭をよぎる。ちぎったパンの耳を水面に浮かべると、小魚がそれを突ついて周りがパシャパシャとさざめき立つ。そこを狙ってサッと素早く網を振ると、中でピチピチ跳ねるのがモツゴだった。

海釣りを知る前は、桃ケ池、万代池、長池といった大阪市内の池へ魚を掬いによく連れて行ってもらった。都市部の池だから生き物の多様性はたかが知れている。それでも、モツゴやスジエビ、アメンボたちを相手に飽きることがなかった。当時はまだ今ほどには目の敵にされていなかったブルーギルの幼魚もよく網に入ったけど、あれから20年経って、池の他の住人たちは駆逐されてしまっていないだろうか。

掬ってきたモツゴやエビは、プラケースの虫カゴに熱帯魚のお下がりの砂利や隠れ処を入れて飼った。コンクリートブロックのような形で中が空洞の、青や緑の陶製の隠れ処はモツゴたちによく似合った。

そんなことを思い出しながらモツゴについて調べていると、属名がPseudorasbora(ラスボラもどき)であると知った。ラスボラと言えば東南アジア産のコイ科魚類の一大勢力で、熱帯魚の世界ではメインストリームだ。
あんなに身近だった日本の魚が、「もどき」とは言えラスボラの名を戴いているとは面白い!パンの耳に群がるような、どちらかというとあまり品のない魚に見えていたモツゴを、綺麗な水槽で飼ってみたくなった。

この感覚を表す適切な喩えは難しい。…行きつけの庶民的な定食屋さんのご主人が、実は学生時代にロブションと同級生だったと知る。そう言えば、初めて店に入った時からデザートメニューに「クレームブリュレ」などという洒落たものがあるのを何だか妙だなと思っていたのだった。そういうことなら、次回はちょっとその「クレームブリュレ」とやらを頼んでみようか。

そんな、心持ちだ。


 
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2013年10月18日

赤い魚 red colored fish

red colored fish

自らが魚を称賛する言葉を顧みると、「赤っ!」というのがまず頭に浮かんだ。真っ赤に色づいた魚を見た時に口を衝いて出る言葉だ。

魚の美しさの重要な要素となる「発色」には、その度合いを左右するいくつかの因子がある。その影響を恐らく最も受けやすいのが「赤」という色だ。赤のポテンシャルを持った魚は、それが最大限に発現した際には赤を通り越してもはや黒に近づいたアメリカンチェリーのような色にまでなるし、その同じ個体がケチャップの上澄みのような気の抜けた色になってしまうこともある。

魚の発色度合いを左右する因子には、あくまで一時的なものと長きに渡り影響を及ぼすものとがある。
一時的なものとしては、
●体調。元気な魚は強く発色し、不調を抱えると色褪せたり黒ずんだりする。「赤すぎて黒い」のと、不調で黒いのとは慣れれば簡単に見分けがつく。
●睡眠。寝ている魚は総じて寝ぼけたような薄い色になる。
●興奮。闘争や食餌行動時、見る見るうちに色みが増す。
●水質。その魚に適した水質でないと本来の発色が見られなくなる。広い意味では「体調」に同じ。
●環境色。底床が白い砂や剥き出しのガラス面のような、下から白く光を反射させるような環境下では赤に限らず多くの魚が色褪せる。

他方、長きに渡って影響を及ぼすものとしては
●婚姻色。上記の「興奮」に近いけれど、繁殖期の間その発色が持続する。特にオスに現れるケースが多い。
●食餌。例えば甲殻類を常食すると、そこに含まれる色素アスタキサンチンの影響で赤の発色が強まることがある。
●日光。発色が強まる一方、斑入りの金魚のようにメラニンの生成による「墨」が増えすぎるのを嫌う場合もある。
●個体差。受け継いだ遺伝形質により、発色の先天的なポテンシャルがそもそも異なる。

こういった様々な条件がすべて良い方向にピタリとはまった魚の美しさ、特に絵の具をべったりと塗ったかのように真っ赤に発色した魚の凄みには思わず熱っぽい称賛の言葉が漏れてしまう。赤っ!、である。


 
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2013年10月11日

アロワナ arowana

arowana
(上)ブラックアロワナ Osteoglossum ferreirai 幼魚
(下)シルバーアロワナ Osteoglossum bicirrhosum 若魚


どっしりとした重みを感じさせる平べったい体を、センザンコウのような大きな鱗でびっしりと覆っている。「何色」という名前で言い表しにくい、どろりと濁った大河そのもののような色味。上向きに大きく裂けた顎、表情を窺いにくい鈍い視線。いかにも古代魚然とした重厚な風貌をしている。

この見た目を備えたアロワナの仲間は、ユーラシア・南アメリカ・オーストラリアの各大陸にそれぞれ生息している。大きく分ければユーラシア・オーストラリアのが兄弟分(学術的には「兄弟」ではなく、「姉妹」と表現するらしい)。南アメリカのは進化の過程で早めにその兄弟・姉妹たちと別れて違う道を歩み、少し遅れて現在の種として成立した。

南アメリカのアロワナはシルバーアロワナとブラックアロワナの2種。これは稚魚の頃の体色に基づいた命名で、大人になるといずれも似たような見た目になる。特に前者は古くから観賞魚として愛好家に親しまれてきたらしい。趣味人だった祖父が飼っていたという大きなシルバーアロワナのことを、母からよく聞かされた。現地では水面上に飛び上って昆虫を捕食するというそのジャンプ力で、フタと重しもろとも水槽の外に飛び出して死んだという。

土間に打ち付けられた大きな魚体が暴れるたびに、濡れた硬い鱗が三和土に擦れてザリザリという音を立てる。それを想像すると、祖父母が健在だった頃の生きた土間の風景が、多少黄色みを帯びてふっと頭に浮かんだ。


 
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2013年10月04日

マサバ Scomber japonicus

Scomber japonicus

サバの背の虫喰い紋の美しさが、そもそも魚を描きたいと思った原点だったように思う。スーパーのサバもいいけれど、生きたサバの背の美しさは形容が難しい。透き通った体表の向こうに空間が広がっているような、不思議な3D感がある。その空間は、酸素がたっぷりと溶け込んだ深い滝壺のような青緑色をしている。目をうんと近づけて覗き込む、その角度を変えるごとに複雑に色が移り変わる。うすい青緑色の釉薬を使った焼き物の透明感と光の多彩さに少し似ている。

腹の潔い白さも美しい。友人と手漕ぎボートで釣りに出た時、サビキ釣りの竿先が突如ゴンゴンと引き込まれた。まさか小ぶりのハマチでも掛かったんじゃないかと思うような強烈な引きだった。ボートの反対側へ走ろうとするのをジリジリ巻き上げると、ゆらめく水面の向こうにギラリと鈍く陽を照り返す白い腹と、虫喰い紋を纏ったうす青緑が見えた。「サバや」友人と声を揃えた直後、竿の手応えはフッと消え、サバは体勢を立て直してあっという間もなく深みに消えていった。

サバの鱗はごく小さくてほぼ透明だ。おそらく、それが折り重なることで複雑な光の透し方をしているのだと思う。その光をなんとか紙に捉えたくて何度も描くのだけれど、いつも背の色を置いた途端に半ば諦めてしまう。今回は普段とは少し違う絵の具の使い方をしてみたけれど、これもあまり芳しくない。


 
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