
日本に生息するタカノハダイ属3種の幼魚
(上)タカノハダイ Cheilodactylus zonatus
(左)ユウダチタカノハ Cheilodactylus quadricornis
(右)ミギマキ Cheilodactylus zebra
品川には2つ水族館がある。1つは、駅前で目立っている「エプソン品川アクアスタジアム」。もう1つは、そこから少し離れた「大森海岸」というところにある「しながわ水族館」だ。
このしながわ水族館には数年前に一度行ったきりなのだけれど、いい水族館だと思った。派手さはないけれど、展示から生き物たちのリアルなあり方が伝わってくる。
メインは「東京湾に注ぐ川」をテーマにした一連の水槽群。上流から河口、そして海へと、下る川の流れととともにそこに棲む魚たちの姿を辿ることができる。東京湾の魚たちが特に印象深かった。何の変哲もないボラやメバルやハゼやカレイだけれど、かれらが港の岸壁や桟橋をイメージしたレイアウトの中を泳いでいる光景は、幼いころに大阪湾の灰色っぽい海で彼らに親しんだ身にはとても身近に感じられて嬉しいものだった。
確かその最後のほうに、岩組みと機械仕掛けの波で磯のようすを再現している水槽があって、そこにタカノハダイがいた。タカノハダイは岩のくぼみにぴったりと体を沿わせて、波が渦巻くたびに胸びれを突っ張らせてじりじりと後ずさりし、体を持っていかれまいとしていた。水槽の中で機械の作る波に抗っている姿は少し哀しいような気もしたけれど、本当の海でもきっとこうやって何かと闘うようにして必死に生きているんだ、昼も夜も、と考えてみると、人間だって同じだなと思った。波の正体が機械仕掛けだろうと大海原に吹く風であろうと、自分が向き合うのは目の前の波だ。波の正体を見透かす力は人それぞれでも、誰だって目の前の波には向き合わざるをえない。
そうやって胸びれで体を支えていた姿、何かに似ているなと思ったら珊瑚礁の熱帯魚のゴンベだった。ゴンベというのはその名から何となくイメージできる通り、なんだかどん臭くて滑稽で可愛らしい魚だ。調べてみると実際に近縁らしい。なんだ、○○ダイなんて格好つけてるけどゴンベの兄貴分か、と思うとより親しみが湧いた。