2014年05月30日

バンブルビーゴビーのなかま genus Brachygobius

genus Brachygobius


バンブルビーとは「マルハナバチ」という小さな蜂のことだ。黒と黄色の大らかな縞模様、丸っこい体型にふさふさと生えた毛が可愛らしい。日本ではミツバチに比べてガタッと知名度が低いけど、ヨーロッパでは親しまれた存在らしく、『くまのプーさん』に描かれている蜂はマルハナバチであるとも言われているそうだ(Wikipedia)。

この蜂にちなんで、黒と黄色の模様を持った魚のいくつかは「バンブルビー」を冠した名前で流通している。その走りは間違いなく、このバンブルビーゴビーだろう。この魚に、ヨーロッパで愛されている丸っこい蜂の名前はとてもふさわしい。大きさはせいぜい2〜3センチ、コロンとした体形におっとりした縞模様、よく見るとあごが大きくてそれなりにふてぶてしい顔も「この!ちっさいくせに!」で笑ってすまされてしまう感じだし、ハゼの仲間らしく流木やガラス面にちょこんと張り付いたり、水底近くをふわふわと漂うように泳いだりする姿は見ているだけで頬が緩んでしまう。

昔から熱帯魚店でよく見かけるバンブルビーゴビー(B. doriae)は淡水と海水の混ざり合う汽水域の魚だから、飼育のハードルは少しだけ高かった。我が家には純淡水あるいは海水の水槽しかなかったので、飼いたいとも思わないように長らく見て見ぬフリをしてきたのだけれど、純淡水で飼える近縁種(B. xanthomelas)がいるらしい。飼っている方のブログを見て溜め息をついていたところ、行きつけのショップで特売になっているのに出会い、ついに我が家の水槽にも迎え入れることができた。可愛らしくて見飽きない。

絵を描こうとこの仲間を調べてみると、意外に多くの種がいることが分かった。Wikipediaに出ていた9種を何とか描き分けて見たけれど、ネットの情報は種の同定の怪しいものも多く、見分けがよくわからない。「かわいいなあ」のレベルでとりあえずは満足することにした。


 
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2014年05月23日

ホウボウ Chelidonichthys spinosus

Chelidonichthys spinosus

ホウボウは部分的に他の色んな生き物に似た、「ぬえ」的な魚だ。

本人は不本意だろうと思うのだが、顔はカブトガニに似ている。丸くて角ばった(矛盾しているようだけど)台形で、一番高い位置に目がついている。目の上に庇が張り出しているのも同じ。この庇、おそらく流体の中で目を護るのに最も適した形状になっているんだろうけど、これのせいで揃って目つきが悪く見える。

ド派手な胸びれは蝶に似ている。なぜこんなに大きくて目立つ色をしているのだろう。一部の蝶の翅に見られる派手な目玉模様は、どうもフクロウに似せることで捕食者たちを威嚇する働きがあるらしいが、ホウボウも同じだろうか。それとも、海底ではこの色こそが逆に捕食者の目に留まりにくいのだろうか。

胸びれのすじの下3本は、長く伸びて指のようになっている。これで体を支えるように砂の上にいる姿をよく見るので、てっきり歩くためのものかと思いきや、これで砂の中をほじくり返して獲物を得ているとのこと。魔女のように細く節くれだった指はアイアイのそれに似ているけど、その悪魔的な役割も同じだったというわけだ。ではこの指を使ってもっぱら砂の中の小さな生き物を食べているのかというとそうでもなく、カサゴ目らしい大きな口で小魚を丸呑みにしたりするらしい。ここまで特異な指を発達させておきながら、贅沢なことだ。

そんな珍妙なパーツの組み合わせでツッコミどころ満載なのに、できあがったこのホウボウという魚はどうも愛らしい。そしてオチは「とても、おいしい」ということだ。おいしくてどうする。
ホワイトデーに妻とイタリアンのお店で食事をした時、こんな日だからと少し贅沢して頼んだホウボウの丸ごと蒸しは、ふわりとした上品な白身にしっかりと味があってとてもおいしかった。すっかり食べつくされた後の「かしら」もやっぱり可愛らしい形をしているし、このホウボウのおかげでまたあのお店行きたいね、という話になっている。


 
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2014年05月16日

キツネメバル Sebastes vulpesとタヌキメバル S. zonatus

Sebastes vulpes

煮付けがおいしい「メバル」の仲間は比較的大らかに定義された一群で、素人目には別の属に分けてもいいんじゃないかと思うような多彩な顔ぶれが一つの属=メバル属に同居している。大雑把に言うと、そのうち体色が明るくて眼の大きなものを「メバル」、沿岸性で体色の黒いものを「ソイ」、沖合の底生性のものを「メヌケ」と総称しているらしい*。スーパーで見かけるメバルは「メバル」、切り身が粕漬けにされている「赤魚」なるものは「メヌケ」の類ということになる。

その見方に従えば、このキツネとタヌキのきょうだいは標準和名でメバルと名付けられているものの、実質は「ソイ」の仲間だ。実際、多くの釣り人が「マゾイ」と呼んでいる。その方がしっくりくるからだろうし、もう一つの理由は恐らくこの2種があまりにも似ていて区別が難しいために、「マゾイ」で片付けた方がストレスなく済むからだ。色味が違う(キツネは青っぽく、タヌキは赤っぽい)、タヌキの方が尾びれの白の縁取りが目立っている、タヌキの方が縞模様がはっきりしている、などの見分け方はあるようだけれど、どちらともつかない個体も多くいる。その上両者は交雑可能というから、「どちらともつかない」のは見た目の問題だけでもないのだ。せっかくの楽しい釣りの最中、見分けにイライラするぐらいならまとめて「マゾイ」で十分、何の問題もない。

学術的には、両者の間にははっきりとした遺伝的な隔たりがあるらしい。またタヌキの方がやや深みに生息するという違いもあるそうで、ならばタヌキの方が赤っぽい色味であるということにもストンと納得がゆく。赤は暗い海の底では見えにくい色であって身を隠すのに好都合なため、深みの魚ほど赤いものが多くなるからだ。

GWに行った大洗の水族館にはタヌキメバルが展示されていた。キツネの方が恐らく個体数が多くメジャーな存在なので、タヌキの展示は珍しいなと思うとともに、こうもきっぱりと「タヌキ」と断言するのは勇気あるなあと思った。今思えば専門家を相手に「勇気あるな」もないものだけれど、確かにその水槽の「マゾイ」たちはみな赤みがかっていて、タヌキで間違いないようだった。

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*阿部宗明・本間昭郎監修、山本保彦編『現代おさかな事典』エヌ・ティー・エス、1997年、436頁。1,200頁近くにわたって国内外の魚介類の生態や漁獲法や利用法などを記載している大事典。


 
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2014年05月09日

シラウオ Salangichthys microdon

Salangichthys microdon

GWの連休中、渋滞に果敢に挑んでアクアワールド茨城県大洗水族館へ行ってきた。

展示中、最大のインパクトはこのシラウオ。生きているのを見るのは初めてで、造形の美しさがまず目に焼き付いた。尻びれ付近の張り出しはなんだか重たそうな形だし、身振りも決してスマートではないはずなのに、ひれを広げた泳ぎ姿がとてもバランスよく格好いい。色味のなさと歪さに研ぎ澄まされたような緊張感があって、シンと静かなのに動けば華やかさが生まれる。透明と黒という違いはあれど、ヨウジヤマモトの洋服を思い出して惚れ惚れと見た。

さらに興奮させられたのは、日本には3属4種のシラウオがいるということ。4種はともかく、3属とは!「属」の違いは、例えば哺乳類ならタヌキとキツネの違いがちょうど当てはまる。哺乳類の分類と魚類のそれとを単純に並べて論じることはできないだろうけど、属の違いとはつまりそれほどに大きいものでもありうるのだ。ここから知るべきは、日本のシラウオ3属の間にタヌキとキツネほどの違いが横たわっているということではなくて、分類という行為の本質的な恣意性の方だろう。世界は途轍もなく広大であるとともに限りなく微細で、人間がそれを理解するための分類の営みには果てがない。その道のりに胸を打たれると同時に、私たちの目の前に広がっているのはそうやって重層的にラベリングされた世界であって、それを意図的に剥がしてみることだって可能なんだということに改めて気づかされる。

家に帰ってさらに調べてみて、シラウオが今のあり方に至った進化の道のりにも面白みがあることを知った。かれらはアユやワカサギといった近縁の魚たちの稚魚に姿かたちがよく似ており、古い祖先のネオテニー(幼体の姿のまま成熟する現象)から種として分化、成立していったという説があるらしい。

シラウオを通じて、形の美しさから分類、進化の道のりまで、魚の魅力を存分に満喫できた一日だった。


 
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2014年05月02日

レッドテールキャット Phractocephalus hemioliopterus

Phractocephalus hemioliopterus

レッドテールキャットは熱帯魚の世界では古くからポピュラーで、あまりに見慣れてしまって最早その美しさに気がつかないほどだ。ゲームフィッシングの対象としても人気があるようで、土色に濁ったアマゾン川をバックに太公望たちが自慢げにかれらを抱えている写真がネットに溢れている。水槽での姿を見慣れている目にはそれがとても新鮮で、レッドテールキャットが破格な洒落ナマズであることに改めて気づかされた。他の地味めな大ナマズとは一線を画する大胆なカラーリングだ。

以前は10cmに満たない幼魚を熱帯魚店でよく見かけた。どんぐりまなこと大きな口がキャラクターじみていてえらく可愛らしいのだけど、大食漢で成長が早くて最終的には1m近くにまでになってしまうので、相当な覚悟と設備がないと飼いきれない。可愛さに目が眩んで手出しすると後で大変なことになると知られてか、最近はあまり見かけなくなったように思う。

熱帯魚を飼い始めた頃、ショップや図鑑で見かけるこの魚を母は気に入って、いやァオシャレやわァと関西弁でしきりに言っていた。きらびやかな小型魚好きとしては正直なところさほどとも思わなかったのだけれど、自分の趣味に興味を持ってもらうのは嬉しいことだ。私はうん、とかそう?などと曖昧な返事をしながらも、母がこの魚を褒めるのがとても好きだった。


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