左下の個体は各ひれが伸長する改良品種。長い布をまとって泳いでいるようでとても美しい
きらびやかな小型熱帯魚の世界で双璧をなすのが、中南米・アフリカのカラシン科とアジアのコイ科。前者の代表魚をかの有名なネオンテトラだとするならば、後者のそれはこのゼブラダニオだ。かれらはどんな飼育書にも入門魚として紹介されているし、もし取り扱っていないショップがあるならば、取り扱っていないことそれ自体が店主のこだわりの一端を示しているとさえ言っていい。それくらいありふれた存在なのだ。
安価で入手しやすく、飼育も(ゼブラダニオに至っては繁殖も)容易。そんな熱帯魚の宿命として、改めてその美しさを真摯に捉えようとする言葉をなかなか見かけない。美しいのは誰もが知っている。けれどもそれを説明する言葉はどうも紋切り型で心に留まらず、使い古されたコピペのようにさらさらと流れ去ってしまう。
その点、数々の熱帯魚に愛情溢れる珠玉のコピーを付している我がバイブル『熱帯魚図鑑』(松坂実 他 著、マリン企画、1986年)はさすがの出色ぶりだ。
“背側はオリーブ、腹側は金色がかった白色で、体側には美しく濃い青地に金色がかった4本の縦じまが通っている。模様は尾ビレ、尻ビレまで続いている。水面近くで群泳するさまは、小型アクアリウム内のすばらしい装飾である。”(抜粋)
たったこれだけの写実的な短文から匂い立つ、繊細で優美な躍動感。この表現の豊かさは、ときに絵や写真をも上回っているのではないかと思う。
文字通り擦り切れるまでこの『熱帯魚図鑑』を眺めていた二十数年前、我が家の玄関の60センチ水槽にはこのゼブラダニオが泳いでいた。やや胴長で頭の丸い体型、しっとりとした厚みを感じさせるなめらかな尾びれ、きりりと引き締まったストライプ模様。その姿でよどみなくキラキラと泳ぎ回るさまを、三和土にしゃがんでひたすら飽きもせず見つめていた。今でも鮮明に思い出せるその光景、何かを連想させると思ったら、それは見渡す限りに銀河のきらめきがひしめくハッブル望遠鏡の宇宙写真であった。