
1986年の名著『熱帯魚図鑑』*は、この魚を「サンタマリア」の名で紹介し、ペンギンテトラを別名扱いとしている。確かに20年前にはショップでも両方の呼称が半々ぐらいの割合で見られたような記憶があるけれど、その後次第にペンギンテトラが主流になっていった。もしいまだにサンタマリアの通り名を使っているショップがあるなら、そこのオーナーはなかなかの懐古的な感覚の持ち主なんじゃないかと思う。
所以のよく分からないサンタマリアと違って、ペンギンテトラの由来ははっきりしている。頭を上げて尾で立っているような泳ぎ姿勢と、少し滲んだような漆黒のライン。この魚のチャームポイントはペンギンを思わせる。
けれども徐々にペンギンの名を採用するショップが増えていくのを目の当たりにしていた当時、何だかつまらないなと思っていた。見た目を説明するような名前よりも、何だかよく分からないけれどサンタマリア、そうと決めたらこの語感はこの魚のもの、そんな気ままな名付けの方が趣味の世界には相応しい。ペンギンテトラというのにはどうも商業的な媚びの匂いがある。子供心に感じていたつまらなさを今説明するならばそんなところだ。
『熱帯魚図鑑』が書かれた30年前の時点で既に「最近ではあまり見られなくなった」と言われている。スター選手ぞろいの○○テトラの中では地味な見た目であること、思いがけず大きくなること(5センチは超える)、気性が荒いことで敬遠されるのかもしれない。でも120センチ幅以上の大水槽にかれらを群れで泳がせれば間違いなく壮観だ。水草をたっぷり植えるのも、アマゾンの水景を思わせる茶色いレイアウトにするのもいい。頭の角度を揃えてキビキビと泳ぐ群れの姿を思い浮かべると、ほーっと溜め息を吐きたくなる。そしてそんな姿に似つかわしいのはやっぱり、「ペンギンテトラ」ではなくて「サンタマリア」なのだ。
--------------------------------------------------
*松坂実 他 著、マリン企画