
ハオコゼ九態
相模湾の西の端で釣りをするようになって、ハオコゼと顔を合わせる機会が格段に増えた。
釣り針に掛かって海から揚がってきた時に、これほど「痛そう」な危険信号を発する魚は他にいないんじゃないかと思う。10センチあれば大きいほう、という小魚だけど、鱗が無くてつるん・ぷりんとした真っ赤な体に弓なりの長い毒針全開という姿からは、「触ったらヤバい」雰囲気がひしひしと伝わってくる。
それでもこの魚は間違いなく磯のアイドルだ。色つきのガラス玉のように光を反射する円らな瞳。ふてぶてしく「へ」の字に少し開いた厚めの唇。その両脇に突き出すふざけたつけ髭みたいな棘。刺されたら呻くぐらい痛いと分かっていても、とても憎む気にはなれない愛らしさだ。
漢字だと「葉虎魚」、由来は釣り上げられた姿が紅葉の葉のようであることらしい。確かに、チリチリと紅い、あるいは朱い魚体はそれ自体が一枚の紅葉のようだし、また紅葉の敷き詰められた川の有様を織り出した錦のようでもある。小学生の頃に呪文のように覚えた百人一首を思い出した。
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは