2015年04月24日

“ガヤ”(エゾメバル) Sebastes taczanowskii

Sebastes taczanowskii

仕事で札幌へ行くことになった。
都合良く月火の日程だったので、前の土日を使って小樽で泊まりがけの釣りをすることにした。

ついこの間函館の海でアイナメを釣って大喜びしたところだけど、やっぱり北海道と言えばメバルやソイの仲間、Sebastes属の魚たち。中でも標準和名で「エゾ」を名乗り、ガヤガヤとうるさいぐらい釣れるものだから「ガヤ」で通っているというこのエゾメバルは、いかにも北海道らしい魚として是非とも出会っておきたかった。

小樽に着いたのが夜の10時半頃。駅近くのホテルにチェックインして、夜食のお弁当を食べてさっそく港へ向かった。海面の様子を見ようと懐中電灯を向けると、一目でメバルの仲間と分かる体型の魚たちが水面下のそこここに佇んでいる。ガヤに違いない。光を向けられたガヤは警戒して深みへと身を翻してしまったので、少し場所を変えて仕掛けを浅く沈めてみる。すぐにガツンとアタリがあった。憧れのガヤはあっけなく手の中に収まった。

図鑑や写真では地味な魚だと思っていたけれど、青に黄に、細かく光を照り返す鱗が惚れ惚れするほど美しくて、いつまでも眺めていたくなる。唇まわりが少し紫がかっているのも洒落ている。こんなに魅力的な魚が駅から徒歩圏内の海にぷかぷか浮かんでいるとは、何て凄いんだ小樽!うるさいぐらい釣れるからガヤっていうのは本当だったんだ…とつぶやきながら、入れ食いと言っていい勢いでエサに食い付いてくるガヤたちの逞しい釣り味を、夜がすっかり更けるまで楽しんだ。


 
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2015年04月17日

アユ Plecoglossus altivelis altivelis

Plecoglossus altivelis

築地場外の「築地にっぽん漁港市場」で若鮎を買った。発泡スチロールの箱にきれいに並べられて10尾500円。食べること以上に、そのあまりに美しい見た目に惹かれた。仕事中だったので、氷を多めに入れてもらって会社へ持ち帰った。

家に帰って台所で袋を開いてみる。キュウリ、あるいはスイカのようと言われる爽やかな青い香りが鼻腔に流れ込んだ。これが鮎の香りか!よく聞くけれど、実際に嗅いだのは初めてのことだった。生臭さとは無縁のこの香りに、すらりと透明感のある姿。滑らかに引き締まっているけれど柔らかそうでもあって、つい触ってみたくなる。触れると表面の粘膜がぬるりと糸を引くけれど、それとてもみずみずしい野菜の水分のように思えて、濡れた指をつい口に含みそうになる。

翌日の晩、5尾ずつ鮎飯と塩焼きにした。若くてまだ魚体は小振りだから、玄米と一緒に長く炊かれて骨も感じないほど柔らかくなった。きめ細かくしっとりとほぐれた白身は、玄米の香ばしい強さととても相性がいい。塩焼きはわたの苦味をかすかに感じながら、これも頭からまるごと食べてしまった。

見目しなやかに麗しく、涼やかに香り、食味は上品ながらひっそりと主張する。この魚が多くの人から特別に愛される理由がよく分かった。


 
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2015年04月10日

タライロン Hoplias aimara

Hoplias_aimara

いま上野の国立科学博物館で「大アマゾン展」をやっているけど、19年前に大阪のエキスポランドでもやはり「大アマゾン展」があった。
目玉は「ブラックタライロン」なる怪魚だった。アマゾンの秘境に棲む、大きくて凶暴で太古の趣を感じさせるシーラカンスのような風貌の魚。「タライロン」という響きの格好良さはこの魚にぴったりに思えたし、しかもそれが「ブラック」ときたら、中学生の心を鷲掴みにする要素は概ね揃っていた。

記憶の中では少し厚めの雲がたれこめた日に、母と見に行った。正確なその日付はもはや知る由もないけれど、1996年のある平日だったことは間違いない。当時のぼくは不登校で、時折そうやって平日に母と遠出していた。曇り空のエキスポランドはガランと人が少なかった。その風景を思い出すと、このしっとりした空気を思う存分独り占めできるという嬉しさと、不登校の後ろめたさとが、味わいを伴って心に蘇ってくる。

タライロンは思ったほどには大きくなかったし、ただじっとしていて凶暴さは窺えなかった。お土産物屋さんで、母に『魅惑の熱帯魚T』というポストカードのセットを買ってもらった。大アマゾン展のオリジナルのものではなかった。けれどもこのポストカードは、あの日の断片を色つきで思い出させてくれるものとして、幾度の引越しを経ても手放すことなく本棚にある。久しぶりにタトウを開いてみると、「でかいやつを母と見に行って買ってもらった」というメモが出てきた。一人暮らしの大学生の頃、やっぱりこうしてポストカードを見ながらあの日を思い出して、その記憶が失われることが怖くなって書いたものだったように思う。大した情報量の無いよれよれのこのメモを、ぼくはこの先あと何度こうして見返すことだろうか。


 
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2015年04月03日

アイナメ Hexagrammos otakii

Hexagrammos_otakii

友人夫妻に誘ってもらって、函館へ旅行した。
手配してもらったホテルを地図で見ると、一抹の期待をそのまま表したかのように海の目の前だった。一泊しての明け方、少し釣りができるかもしれない。冗談半分でそうメールしたら、夫妻それぞれからすぐに「旅行日付近の気象情報」「ホテル裏の海のストリートビュー写真」が送られてきた。さらにいよいよ出発が近づいて友人が送ってくれた旅程表には「早朝 長やんが釣り」と書かれてあって、二人の優しさがしみじみと心に響いた。

実際、ホテルから2、3分も歩くと綺麗な岸壁の海だった。着いた日の夕方、少し時間が余ったので海の様子を見に行った。風が強くて肌寒かったけれど、妻が付いてきてくれた。ワームを沈めてみると、赤い海藻が針に掛かってきた。アタリはなかったし、地元の人らしきおじさんにそこじゃ釣れないよとかその竿じゃ厳しいよとかいろいろ言われたけど、魚が居そうな気配はたっぷりだった。ワームよりエサ釣りの方がいいかもしれない。そう思ってホテルの前のお土産物屋さんでイカの塩辛を買い、ワクワクした気分のままその後の夜の旅程を楽しんだ。函館山の夜景は確かに素晴らしかったし、友人が早々と予約してくれていた「北海道一うまい」お寿司屋さんのお寿司は本当に美味しかった。

深夜、海へ向かった。塩辛を針に掛けて仕掛けを沈めると、真昼の真鶴かのようにすぐに魚信があって、一気にアドレナリンが噴き出した。それきりアタリは途絶えたけれど、小一時間辛抱強く岸壁を探り回ると、ついに魚が針に乗った。だらりと伸ばしたイカの切り身を端から食べていったことが分かる、イカの弾力含みのグングン、というアタリだった。夕方、おじさんに「その竿じゃ厳しいよ」と言われていたいつもの短竿が弓形にしなって、真っ暗な海からすぽんと大きな魚体が揚がった。オレンジ色の街灯の下で、アイナメのつるりとした頭がてらてら光っていた。旅行の「ついで」の釣りで、現地調達のイカの塩辛で、本当に釣れた!寒さを忘れて興奮して、ホテルの妻に電話をかけた。手の中の30センチのアイナメはしなやかでいてどっしりとした肉付きで、細かな鱗の手触りがざりざりと心地好かった。

それからは岸壁十数メートルごとに魚信を楽しみつつ、やや小振りのアイナメをもう一尾。いったんホテルに戻って2時間ほど眠って、早朝再び出た海でまた一投めからアタリを味わってもう一尾釣り上げた。合計3尾。釣果以上に濃厚に魚の気配を感じ続けて、北海道の海の豊かさを思う存分堪能した。その後はかすかな眠気を感じながら朝市を見に行って、優しい友人夫妻との朝食を楽しんだ。


 
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