2015年06月26日

オイカワ Zacco platypus

Zacco_platypus_150626

日本の淡水魚の花形といえばこのオイカワだと思う。タナゴの類の、七宝焼きのように艶やかな煌めきにも息を呑まされるけれど、体の大きさや体形や泳ぎ姿の華やかさでオイカワに軍配を上げたい。

このような色の魚が日本の川にいるということに驚くと同時に、日本の伝統的な染めの、目にも鮮やかな珊瑚色や新橋色はこういったところにルーツがあったのかと納得させられもする。染め職人がオイカワに色の着想を得たかどうかはわからないけれど、文化というものはやはりその土地の自然の中に浅かれ深かれ根を張っているものなのだと、この魚は信じさせてくれる。

華やかな姿にどうしても目がいきがちだけれど、愛らしい顔つきもまたオイカワの魅力である。円い目に鼻先がちょんと尖ったシャープな顔にはきょとんとした表情があるし、婚姻色と追い星が現れて頬にボリュームが出た雄も、迫力というよりは飴を口に含んでいるような愛嬌がある。


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2015年06月19日

キタマクラ Canthigaster rivulata

Canthigaster_rivulata

防波堤最強の「エサ盗り」は、このキタマクラだと思っている。

「魚信(アタリ)を残さない」のがかれらの流儀だ。仕掛けを沈めると同時に竿先に微妙な反応があり、それっきりウンともスンとも言わないので巻き上げてみると、綺麗にエサがなくなっている。そういうのはたいていキタマクラの仕業だ。エサどころか、糸を噛み切って針ごと持っていってしまうことも珍しくない。

同じフグでもクサフグやヒガンフグといったタキフグ属の面々は、釣り人がイメージしているほどには実はエサ盗りがうまくない。魚信も残すし結構な頻度で針にも掛かる。釣り上げられるとグシグシ言いながらせっせと膨らんでいく。そんな姿は実に愛嬌たっぷりだけれど、キタマクラにはあまり可愛げがない。古代文明のお面のようにグラフィカルな模様をまとった無表情な顔に、ガラス玉みたいな目をキョロつかせて、とにかくパワフルに暴れる。「しくじり慣れ」していないと、しくじった時の振る舞いに余裕がなくなるのかな、と思わせるような暴れっぷりだ。

3つのポイントが、かれらの高度なエサ盗り技術を支えている。エサや糸を噛み切る強靭な歯。コンパクトカーみたいに無駄なく小回りの利く丸い体型。前後上下左右、自由自在に滑らかな泳ぎを生む引き締まった筋肉。特にこの筋肉はタキフグ属との大きな違いだ。手にしたときの太さ、固さ、重さがまるで違う。「北枕」なんて物騒な名前を聞かされてはとても食べる気になれないけど、さぞコリコリとしたいい白身だろうと思う。

そんな、釣り場で顔を見ても「おおよしよし」とはなかなか思わない魚なのだけれど、この魚がいる海は岩礁帯で豊かであることが多いし、海によって色や模様が違うという面白さもある。特に静岡県の網代で釣れるキタマクラたちは、腹部から尾びれにかけてが目の覚めるような深く鮮やかな青に染まってとても美しい。


 
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2015年06月12日

シロギス Sillago japonica

Sillago_japonica

3年前のちょうど今頃、中学時代からの友人に誘われてボート釣りに行った。それがしばらく離れていた釣りとの久しぶりの再会だった。手漕ぎボートで沖に出て、ちゃぽんと仕掛けを沈めるとキスが釣れた。その日の釣果はキスが10尾足らずでけっして大漁とは言えなかったけれど、まずは大きいのを友人と1尾ずつ、あとは小振りのものを適当に分けて持ち帰った。歩留まりの悪い下手な包丁さばきで三枚に卸して、昆布〆にして食べた。透明感がありつつもねっとりと甘くて、とてもおいしかった。

その味の良さに加え、見た目の美しさも備えたシロギスは「魚の女王」とも言われるらしい。確かに、流線形の身体はすらりと美しいし、華奢なのかと思いきや意外にしっかりとした筋肉がまるく引き締まっているというギャップも魅力的だ。さらに体表の鱗は適度に硬くざらついていて、そこがまたすっきりした清涼感を生み出すもとになっている。

けれどもこの魚が「女王」と呼ばれる最大の所以は、この目の美しさではないか。大きくてつぶらでぱっちりとしていて、正々堂々たる気品がある。イワシやサバなどもつぶらで可愛らしい目をしているけれど、守ってくれるもののない広い海洋空間で常に捕食者に気を配っているかれらの目には潜在的な不安の光が宿っているようにも感じる。シロギスとてもちろん常に捕食の危険にはさらされているだろうけれど、このまっすぐに円い目を持った魚には、白くて綺麗な砂の海底をすいすいと心地好く泳いでゆく姿が似つかわしい。


 
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2015年06月05日

スルメイカ Todarodes pacificus

Todarodes_pacificus

釣り餌においてはゴカイであれエビであれとにかく「活き餌」に勝るものはないと思っていたけれど、活き餌を入手できず仕方なくイカの塩辛で臨んだ函館での釣りでアイナメを釣り上げて以来、塩辛は状況によっては活き餌を上回るのではと思うようになった。千葉の鵜原港ではフグたちに大人気だったし、伊豆の稲取港で生まれて初めてのムラソイを釣り上げたのも塩辛だった。だから近頃は釣行の日が近づくと近所の「西友」でスルメイカを買ってせっせと塩辛を作る。お野菜に関してはどちらかというと品質よりも安さ優先の感がある西友だけれど、なぜかスルメイカはいつもぷっくり太った新鮮なものが並んでいる。頭をつかんで引き抜くと細長い袋状の器官に詰まった「わた」が出てくるので、身の半分を千切り的に刻んだものと和えて適当に塩を振って出来上がり。残りの身と頭周りの軟骨とゲソは冷凍しておいて、日曜日のお昼か飲んだ後の「締めのパスタ」病に罹ったときのスパゲティの具にする。料理の下ごしらえと釣り餌づくりを兼ねた楽しい作業だ。

椎名誠さんは初期のエッセイ(『かつをぶしの時代なのだ』だったと思う)の中で、タコの水陸両用的な不気味さと比較して、水から揚げられたイカを“ひっそりと伏し目がちで奥ゆかしい”というように書いておられた。確かにタコには悪役モンスターの趣がある。けれどもイカの「異世界感」もなかなかの不気味さだ。タコはギリギリのところで話が通じそうな感じがする(だから鉢巻姿で擬人化されるんだと思う。実際3歳児なみの知能があるとも言うし)けど、イカはきっと人語を解さない。やけに白黒はっきりとして焦点の定まらない◎の目で、頭の上の10本の腕をクネクネ振り回す姿は宇宙人的だ。そういえば「わた」をたっぷり詰め込んだあの袋状の器官は表面がメタリックグレーに輝いて、どうにも宇宙服を彷彿させるではないか。


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