2015年11月27日

潮だまりのギンポたち Blennies in tide-pools

blennies
上から カエルウオ Istiblennius enosimae
ナベカ Omobranchus elegans
ヘビギンポ Enneapterygius etheostomus
イソギンポ Parablennius yatabei


堤防や岸壁から地磯へと釣りの場を拡げて、改めて「海」の豊かさを思い知らされた。きっかけは千葉県、外房の鵜原港。風雨のせいもあって岸壁からの釣りが思わしくなく、歩き回るうちに足を踏み入れた地磯には一面びっしりと、文字通り足の踏み場もなく生命が敷き詰められていた。ウニやヤドカリやイソギンチャクや巻貝といった馴染み深い面々はもちろん、目を凝らせば水面でモヤモヤしている半透明の糸くずのようなものまで、あきらかに生き物のうごめき方をしているのだ。もし生命があるところにひとつずつGoogle mapの赤いピンを立てていったら、その地磯は見渡す限り真っ赤になってしまったに違いない。

そうして釣りの行動範囲に地磯が含まれるようになって、潮だまりで遊ぶようになった。そうすると「ボウズ」なんてもうあり得ないのだ。小さな袖針に一切れのイソメをつけてそろりそろりと沈めると、アゴハゼやドロメはなんの躊躇もなく勢いよく食いついてくる。かれらの貪欲ぶりを見ていると、磯の豊かさばかりでなく苛酷さが浮かび上がってくる。潮だまりの住人たちは「いま食べなければ、次いつ食べられるか分からない」、刻々と劇的に変化し続ける環境下でこの凄まじい「食う・食われる」に常に身を晒しているのだ。

そんな潮だまりで、一見なにやら楽しそうな表情で岩の陰からヒョイと顔を出したり、すぐまた引っ込んだりしているのがこの小さなギンポたち。生き生きときらめくようなその姿を見ていると、堤防では釣り人に雑魚扱いされて洟もひっかけられないかれらの住み家は、やっぱりこの潮だまりなのだとよく分かる。ハゼの仲間と違ってせわしないすばしこさで用心深くもあるから、見釣りのエサになかなか食いついてくれないし、手網に追い込むのも至難の業。
先日南伊豆に画家のラスさんを訪ね、一緒に潮だまりで生き物を捕って遊んだ。さすがはラスさん、慣れたもので大きな手網を潮だまりの中で巧みに翻して、カエルウオを捕まえた。初めて間近に見るカエルウオは渋さの中に複雑な光沢が含まれていて、とても美しかった。またすぐ磯へ遊びに行きたい、と思っている。


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2015年11月20日

ハタハタ Arctoscopus japonicus

Arctoscopus_japonicus

ハタハタ、似た仲間が思い当たらない不思議な魚。この間築地で見たときもそう思ったし、たまたまその数日後、近所のスーパーで半額になっているのを手に入れてまた思った。

「変わった魚はみんなトゲウオ目を疑え」という乱暴な自分ルールに当てはめてみてから答え合わせ。するとトゲウオ目はハズレ、スズキ目ハタハタ科とのこと。
拍子抜けしつつWikipediaを読んでいると、「ミトコンドリアDNAの解析によればカジカに近縁」とある。そこで「あっ!」ハタと、否、ハタ×2と膝を叩いた。大きな受け口、意外に鋭くて本数の多いえらぶた周りの棘、根元から幅の広い大きな胸びれ、そして胸びれの下のほうの何本かの軟条は短くて、ひょっとしたらカジカやカサゴのように海底で踏ん張るための爪状になっていたかもしれないと思わせる。中層よりは海底で体を支えるのに向いていそうなやや幅狭で強度のある腹びれ、鱗のないつやんとした体、肛門より後ろは長くて白くてつるんと皮が剥けそうで、そこにややくし状に分離した先端を持つ尻びれが長々とついている。
あらためてカジカの仲間の写真を見返しても、そんな要所要所がすごく似た気配を持っている。しかも日中はあまり泳ぎ回らずに、カジカ同様海底で過ごしているというではないか。

これはあくまで答え合わせしてからの後出しじゃんけんだし、こうした研究は日進月歩だからカジカに近縁というのが本当に正しいということになるのかも分からない。形態だけでなく遺伝子が分類学の対象になって、「何をもって似ていると判断するか」はどんどん複雑になっているみたいだ。
ただ、何にも似てないなと思ってたハタハタに突如カジカの遠い面影が見えて、この種に流れてきた時間を想像するのが楽しくなった。カジカがCGっぽくトランスフォームしてハタハタになるのを頭に浮かべつつ、この味も「ナベコワシ」の異名を持つ*カジカ譲りだろうかと舌鼓を打った。

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*一部の地方では、あまりにおいしくて必死でなべを突つくのでなべが壊れるといってこう呼ばれるそう。
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2015年11月13日

キュウセン Halichoeres poecilopterus

Halichoeres_poecilopterus
(上) ターミナル・フェイズ(性転換してオスになったもの)
(下) イニシャル・フェイズ(メスだけでなく、生まれつきのオスもいる)


キュウセンは性転換する魚で、若いうちは全部メス。そのうち一部は成長するとオスに変わるのだと思っていたのだけれど、その知識は古いらしい。イニシャル・フェイズと呼ばれる若い段階にはメスだけでなく生まれついてのオスもいて、その姿のまま生殖活動に参加するものもいるということだ。そういうオスは、性転換してターミナル・フェイズとなったオスに比べて体も小さくハーレムを持つことができないため、ハーレム内でメスにまぎれて暮らし、こっそり生殖活動に参加しているそうだ。

同じ種の中でオスの生殖戦略になぜそんな2つのまったく異なる型ができたのだろうかと不思議に思っていたのだけれど、今朝読んだWebの記事『新石器時代に生殖できた男性は「極端に少なかった」』で腑に落ちたように思った。遺伝的研究の結果、8,000年前に生殖を行うことができた人類は女性17人に対して男性1人の割合であることが分かったという記事だ。新石器時代の文明の発達により男性の競争が激化し、一部の男性に力が集中した結果、大半の男性は自らのDNAを残すことができなくなった可能性があるという。

自らのDNAを残すことがもし「個」の「本能的な欲求」なのだとしたら、その欲求に従って競争が激しくなるにつれ「一人勝ち」が起こる可能性も高くなる。それは勝ち残った「個」にとっては歓迎すべき事態だろうけれど、「種」にとっては危険なことでもある。遺伝的な多様性が失われることで将来的な種の適応能力が低下するだろうし、そうでなくとも一人勝ちした「個」に不測の事態が生じた場合にそこで生殖活動が滞ってしまうから。

人類がおそらく「ハーレム型」でない生殖形態をとることでそのリスクを乗り越えたのと同じように、キュウセンは「ハーレム型」の中にそれを逸脱するオスを内在させることで、種としての強さを保ってきたということなんだろう。
考えてみれば人類の生殖戦略なんて「2つ」どころじゃなく個体ごとにさまざまなのだからキュウセンに驚く必要はないし、ある仕組みの中にそれを逸脱するものを内包しておくことが仕組みを存続させるための秘訣であるということは非常に示唆的で、キュウセンの性転換から思いがけず人間のことを考えさせられた。


 
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2015年11月06日

ウミタナゴの仲間 Ditrema spp.

Ditrema_spp
(上)マタナゴ Ditrema temminckii pacificum
(中)ウミタナゴ Ditrema temminckii temminckii
(下)アオタナゴ Ditrema viride


川魚のタナゴの類に似た体形と顔つきなのでウミタナゴ。小学生の頃、忠岡港での釣りでよく出会ったものだけれど、後に分類が変わって当時釣っていたものは亜種のマタナゴだということになった。マタナゴ、という名前になってしまうと川魚のタナゴとの区別を示す分かりやすい目印がなくなってしまうので、誤解を招きそうでなんだか口にしたくない名前だなと思っている。

川のタナゴのような艶やかさはないけれど、海のタナゴもよくよく見ると随分美しい。鱗の一枚一枚が青みがかったり赤みがかったり、ひれに鮮やかな黄色が差されていたり。

三浦半島の、近くに地磯がある砂底の漁港(三浦半島はとにかくそういう漁港だらけだ)でよく釣れる。中層に餌を漂わせた延べ竿を、ヒィンという竿鳴りととともに勢いよく引き込んでくれる。その釣り味はいいのだけれど、おちょぼ口に似合わず一気に喉奥まで餌を吸い込むような食べ方をするのか、簡単に針を飲みこんでしまう。しかも釣り上げられるショックに弱いようで、さほどダメージなく針を外してもバケツに入れるとおなかを見せてプカンと浮いてしまうことが多い。しばらく経つと正気を取り戻してきちんと泳ぎ始めるのだけど、最初の頃はダメにしてしまったか…と思って近くで待ち受けるネコにあげてしまったこともあった。

つい先日、その三浦半島の間口漁港でマタナゴが入れ食いになったことがあった。釣るなり針を外して即海に返す、というのを繰り返していたのだけれど、釣られたショックかダメージか、しばらく波間で白い腹を見せてふわふわ漂ったものがいた。すると突如、視界の左側から巨大な茶色の塊が飛び込んできて、魚体をさらうと悠々と飛び去った。上空で目を光らせていたらしきトビだった。そのあまりの大きさと、それに似つかわしくない軽やかでバネのある動きが、しばらく目に焼き付いて離れなかった。


 
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