
※公開時、タイトルにocellaris種と記載していましたが、twitterであいすぽったーさんにご指摘いただき修正しました。
Cichla属にはこのorinocencisをはじめとするいくつかの種があって、それらをまとめて観賞魚の世界では「アイスポットシクリッド」と呼び、釣りの世界では「ピーコックバス」と呼んでいる。いずれも、尾びれの付け根にある目玉模様にちなんだ呼び名ということらしい(eye-spot=目玉模様、peacock=クジャクの羽模様)。現地では「ツクナレ」、これは意味は分からないけれど、観賞魚派・釣り派問わず口に出して言ってみたくなる心地好い語感であるのは間違いない。
その呼び名から分かる通り、アクアリストは熱帯魚界の一大勢力であるシクリッドの一つとして、分類学に基づいてこの魚を位置づけている。他方釣り人はいわゆるブラックバスやシーバスのように、分類学ではなく見た目や習性に基づいたやや曖昧な定義で「バス」と呼ばれる一群の中にこの魚を位置づけた。どちらが正しいとも間違っているとも言うのではない。ただ命名はそれをする人間がどのような目的を持っているかによる、ということがここに表れている。
ただ、2つの名前を並べてみることで面白い発見もある。
なぜ分類の異なるさまざまな魚が、「バス」という一つのグループにまとめられるほどに似通った見た目や習性を備えたかという背景には、似た生態的地位を占める生物が似通った姿に進化する「収斂(しゅうれん)進化」という現象がある。たとえばブラックバスとピーコックバスとは、「科」より上のレベルで既に異なる分類に属しているのだけれど、淡水域での上位捕食者という位置づけが同じであったためによく似た形に落ち着いたのだろう。
でありながら、一方で決定的に異なる(と僕が考える)のは、ブラックバスが前後2つに分かれた背びれを持つのに対し、アイスポットシクリッドの背びれは(なんとなく前後で異なる雰囲気ながら)1つにつながっていることだ。これは紛れもなくシクリッドの面々が備えている特徴で、要するにどれだけ収斂進化したとしても争えぬ血はあるということらしい。
日本では一般的にあまり馴染みのない魚だけれど、「東京タワー水族館」では年季の入った大きな個体をたくさん見ることができる。長らく水槽で飼われたかれらに野性味はもはや感じられないけれど、いわゆる「バス」たちの中でも際立って口が大きく、強い魚食性を感じさせる顔だちには一見の価値がある。