
ところ変われば、海も変わる。海が変われば、魚も変わる。魚変われば、釣りも変わるーーということで、石垣島へやってきて以来、釣りがまったく振るわない。関東では漁港の岸壁や地磯で物陰を探って根魚を釣るということに熱中していたから、サンゴ礁の海やマングローブへルアーを投げて魚を振り向かせる術がまるで身に付いていない。
まずは思い通りにルアーの投擲ができるように、と苦しんでいたある日、干潮で剥き出しになった遠浅の海の向こうにいかにも根魚が好みそうな古びたコンクリートの構造物が並んでいるのを見つけた。後で知ったのだがそれはヒメシャコガイの養殖基盤だった。ただ、稼働しているのは三十基以上が並ぶ中でどうも一基だけのようで(それとてシャコガイが勝手に入り込んだだけかもしれない)、あとはタイドプールと化して中を小さなスズメダイたちが泳いでいる。
この基盤はどれも死サンゴの上にどすんと直置きされたもので、海底との間に大小まちまちな隙間ができていた。ここへワームを落とすと、たちまち魚が飛び出してくるのが見えた。ワームやフックの大きさを様々に変えてみるうちに、石ミーバイ(カンモンハタ)やメギスが掛かった。慣れた根魚釣りにようやく戻れて気分良く楽しんでいると、真っ赤な、根魚ではない「泳ぐ魚」が飛び出すのが見えた。フックを小さめにして狙うと、針に掛かったのがこのテリエビスだった。
干潮時には水深1メートルにも満たないこんなところに、こうも真っ赤な「泳ぐ魚」がいるとは思いがけなかった。南の海の、というよりは深い海の魚の姿をしている。鱗は薄くて硬く、小さな平面が列をなして体を覆っている。顔まわりの棘は細く、鋭い。顔はスマートで目はつぶら、口の大きさにも根魚らしい貪欲さがない。海が変わっても、同じような環境にいる魚はやっぱり種を超えて似た雰囲気を持つものだと思っていたけれど、根魚が好む環境から釣り上げるものとしてテリエビスの姿は僕には異端だった。改めて、ここはこれまで釣りしてきたのとは違う海なんだと実感した。