
初めて船の上からジギングというものをした。
金属の塊そのものの重たいルアーを、ただ沈めてはぐるぐる巻き上げる釣りだ。つまりルアーは垂直方向に泳ぐわけで、そんな不自然な動きで本当に釣れるのかと思うのだけれどこれが滅法釣れるらしい。
船は石垣島で潜水漁をされる伝説的な海人の方のもの。潜って魚を突くのには僕はとても付いていけないので、船上で待っている間に釣りをさせてもらうことになったのだ。
船長に「いいぞ」と言われて、海面にドボンとルアーを落とす。多少の波はあるけれどもいたって穏やかな海で、ずっしり重いルアーは透き通った水の中を一直線に海底へ…と思いきや、流されてどんどん船から遠ざかっていってしまう。海水という、この透明で巨大な塊のエネルギーを感じつつ、どうやらルアーが着底したと見るや今度は必死に竿を煽って巻き上げる。なにしろゴツゴツと複雑に発達したサンゴ礁にルアーを投げ入れるのだから、うかうかしているとすぐに岩に引っかかってしまう。本当は着底するかしないかのところで巻き上げ始めたいのだけれど、うんと遠くまで斜めに流されているので深さの想像がつかない。
そんな海の底から、ゴツン、ブルブル、というアタリが伝わってくる。何がかかったのだろうとワクワクしながら巻き上げると、深みのあるウルトラマリンブルーの海面にポカリ、と朱い魚体が浮かぶ。オジロバラハタだった。船長に見せると「血抜いてボックス入れとけ」とキープ指令が出たのでその通りにし、上機嫌で再びルアーを沈めるとしばらくしてまたゴツン。この辺りに群れているらしい。海底から少し浮き上がったところで、頭をやや上向きにして獲物の小魚を睨みつつ泳いでいる群れの姿が目に浮かぶ。立て続けに釣り上げると、船長が早口の島言葉で「また釣ったんか、プロだな」と褒めてくれた。
船上でのお昼は、オジロバラハタたちを味噌汁に。個体によってはシガテラと呼ばれる中毒を引き起こす毒を持ちうる種なのだけれど、海人たちはどういう個体が危ないのかをよく知っているらしい。「食中毒の可能性のあるバラハタが築地に流通」という全国ニュースの「まあ、こわ〜い!」感は、無理もないことなんだけれど少し滑稽に見える。
港へ戻って水揚げしている間に、船主の海人の方が「おい、持ってけ。自分で釣ったんだから余計うまいだろ」と味噌汁の残りを持たせてくださった。ビニール袋はわざわざ二重になっていた。翌朝、また一段と味わい深くなった残りの汁と身を、美味しく食べた。