2021年06月14日

タナバタウオ Plesiops coeruleolineatus

Plesiops coeruleolineatus

10月から3月までの半年間、石垣島では大潮の深夜になると普段は水没している沖の礁嶺へ歩いて出られるほどに潮が引く。大潮は月に2サイクル、満月と新月の前後にやってくる。満月ならば月明かりが海中にまで射し込んで、生き物たちの賑やかな気配が色を伴って見とおせる。新月ならばあたりは一様にべったりと闇に包まれ、頭上には星が、足下には青く発光生物が瞬く。

そんな礁嶺に点々と残されたタイドプールに懐中電灯を向けると、折り重なった枝サンゴの骨の合間にタナバタウオが見つかる。個体数は多く、どんぶり鉢ほどの小さな水たまりに2〜3尾がたむろしていることもある。初めて夜のサンゴ礁を歩いたときはその密度に驚いた。昼間は物陰に潜んでおり、水面から覗き込んでもその姿を見ることはなかったからだ。

そっと手網に追い込んでアクリルケースに移す。チョウセンブナやクテノポマ・アンソルギーといった一部の淡水魚を思わせるバランスの造形が目に心地好い。頭部に散らばる白い斑点とひれにあしらわれた青いラインは灯りを照り返し、小さな魚体の存在感を増している。お気に入りの石ころやかっこいい木の実を手にしたときのような充足感が、目とケースの間のわずかな空間に満ち満ちた。

珍しくはないと知って以来、深夜の礁嶺のみならず日中のゴロタ浜や漁港の石積みにもこの魚を期待するようになった。石やシャコガイの殻をそっと持ち上げると、突然訪れた異変に緊張する橙色の背びれが目に入る。岩の隙間に小針の仕掛けを沈めると、元気で愛らしい手応えとともにパカッと口を開いて釣り上がる。それらを見さえすれば、たとえ思い通りに魚と出会えない1日だったとしても、満足して家路に就くことができるのだった。


 
posted by uonofu at 02:32| Comment(0) | 魚の譜