2014年07月04日

イワナ Salvelinus leucomaenis

Salvelinus leucomaenis
イワナの一亜種、ニッコウイワナ Salvelinus leucomaenis pluvius

昭和年間、黒部の山に住んでいた山男たちの記録である『定本 黒部の山賊 アルプスの怪』(伊藤正一著、山と溪谷社、2014年)には、彼らの大切な食糧としてイワナが再三登場する。中でも、「山賊」の一人である遠山林平のイワナ釣りの描写が面白い。彼が毛針を投げると「磁石にでも吸いつけられるように」魚がかかり、次の瞬間には空中をひらりと舞って手網に収まったかと思うとその時にはもう針が外れている。本人曰く「拾うよりも早い」、神懸かった腕前だったらしい。

著者の伊藤さんによると、彼は「山と魚を愛し」、絶対に小さな魚は釣らず、また毒を流して浮いたイワナを一網打尽にするような獲り方をする人間を許さず「徹底的に懲らしめた」。山に生きる彼らには、山と一緒に生きていくためのルールがあった。それに反する者−黒部の山を管理下に組み入れようとする行政も含め−への威嚇や攻撃が、この本のタイトルである「山賊」のイメージを生んだ一因だったに違いない。

ところで、毒を流してイワナを獲る、というとまんが日本昔ばなしの名作「イワナの怪」が思い浮かぶ。沢に毒を流そうとする木こりたちのもとに、坊さんに化けたイワナがやめるよう説得しにくるという話だ。日本の渓流魚にはイワナの他にヤマメアマゴがいるけれど、この不気味な話にはどうもイワナこそが似つかわしい。恐らく、ヤマメやアマゴに比べて奥深い山に棲み、川を下ることもなくひっそりと大きくなっていくイワナの生活史が、昔話にしばしば登場する「ぬし」の概念にぴったりなのだ。


 
posted by uonofu at 23:59| Comment(0) | 魚の譜
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