
夜の川は魚が寝ぼけているのですくいやすい、ということを聞きつけ、夜襲に出た。三面コンクリート護岸の水路化した川で、水面下にはびっしりとササバモやマツモが生い茂っている。昼間、それら水草の合間からちらほらと見えていた婚姻色のタナゴがすくい放題なのではないか。そう胸を膨らませて行ったのだけれど、水面直下でボンヤリと寝ぼけているのは2〜3センチの幼魚ばかり。大人はやはりそれなりに用心深さを身に付けているらしい。
水草が途切れて水の中を覗き込める場所を求めつつ川沿いを歩いていく。時おり成魚のタナゴが見えて咄嗟に網を振るのだけれど、ものの見事に空振りばかり。いつの間にか5車線の道路も横断して、元の場所から200メートルほども離れた橋の下で、10センチほどの細長い魚が懐中電灯の光に浮かぶのを見る。どうせまた空振りだろうと半ば諦めながら身を乗り出して網を突っ込むと、思いがけなくも銀色の魚体がピチピチ跳ねた。水を張ったプラケースは元の場所に置いたままで、大慌てで走って戻る。運悪く5車線の赤信号にも引っかかり、ヤキモキしながらようやくプラケースに魚を放すと、生気のない目で横倒しにふわりと浮かんだ。息をしていなかった。
尻びれが長く伸びているのが目についたけれど、オイカワなのかカワムツなのかヌマムツなのか、よく分からない。なきがらを持ち帰って電灯の下で見るとうっすらと横縞が浮かんでいて、どうやらオイカワらしいと知る。婚姻色の出た雄のオイカワの美しさにはいつも惚れ惚れとして、日本の淡水魚の中でも最も好きなうちの一つだけれど、こうして自分の手ですくい捕ることになるとは思ってもみなかった。子どもの頃から、身近な市街地の川にはオイカワはおろか生き物の気配自体まるでなかったから。後になって、オイカワは河川改修や汚染にも比較的強くて、生息数が増えているということを知った。
タグ:2014夏の帰省
私は夜に魚の寝込みを襲って網振り回してようやく一尾でした。笑