2014年09月19日

“カッコウナマズ” Synodontis multipunctatus

Synodontis multipunctatus
(上)シクリッドの一種、Ctenochromis horei 雄
(中)口腔内に卵や稚魚を含んだ雌
(下)“カッコウナマズ”ことSynodontis multipunctatus


他の生き物の卵に自らの卵を紛れ込ませて面倒を見させる、「托卵」という繁殖戦略をとる生き物がいる。有名なのは鳥のカッコウで、ターゲットの鳥の巣に卵をひとつ産み付けると、数合わせのために元の卵をひとつ蹴り出して去る。やがて孵化したカッコウのヒナは、卵であれヒナであれ、巣の本来の住人たちを全て蹴落として殺してしまう。後は子どもがすり替わったと気付かない、あるいは気付いていても育雛本能に抗えない可哀想な親鳥にたっぷりの餌を与えられてすくすく育ってゆく。親鳥よりも遥かに大きなカッコウのヒナが口を開けて餌をねだっている姿には、えも言われぬ独特の気味悪さがある。

托卵という戦略を支えるのは、卵や子どもを高い確率で守り抜く育児の仕組みを持った他種の存在だ。魚の世界で有名な托卵魚は、アフリカのタンガニイカ湖に棲むシノドンティス・ムルティプンクタートゥス。その生態にちなんで別名カッコウナマズという(学名でよく知られているから、あまりこの名前で呼ぶ人はいないけれど)。かれらの標的は、子育てする魚の中でもかなり発達した育児形態をとるシクリッドの仲間で、卵や稚魚を口の中で育てている。母魚の食事をある程度犠牲にしてまで子どもを守ろうというシクリッドに対するカッコウナマズの所業は、本家カッコウ以上に悪魔的かもしれない―シクリッドの口の中で孵化したカッコウナマズの稚魚たちは、周りの卵や稚魚をどんどん食べて大きくなる。頭でっかちでオタマジャクシのような形をした可愛らしいナマズの稚魚が、シクリッドの口からわらわらと泳ぎ出してまた戻っていく光景には、一見してシクリッドの親子に何か良くないことが起こっているなという嫌な気配がある。

けれども托卵というやり方はスパイと同様、相手の懐に深く入り込む分、見破られればいともたやすく殺されるというリスクと背中合わせだ。実際、カッコウの標的となる鳥の中には次第に卵の違いを見分ける術を身に付け(というより、見分けられるものだけが生き残っていき)、托卵を阻止することに成功するようになっていくものがあるという。そうなるとカッコウは別種にターゲットを変え、今度はその種によく似た模様の卵を産む=見破られにくいカッコウが生き残っていくらしい。カッコウナマズとシクリッドの間にも、そのような攻防や淘汰が絶えず生じているに違いない。
人間の感覚からすればどうも「相手をだまして楽をしようとする」感のある托卵だけれど、悪いとかズルいとか考えるのは人間だけのすることで、生物の繁殖戦略としては他の数多と何ら意味の違いなどなく、ただただ「適するものが生き残っていく」という事実だけがある。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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