
友人のお子さんが魚好きで、中でもお気に入りがこのウケグチメバルらしい。
スーパーや水族館で見かける魚でもないから、おそらく図鑑で見て好きになったのだろうと思う。なぜよりによってこのマイナーな魚を、と思ったのだけれど、やはり図鑑好きだった自分自身の子どもの頃を振り返ってみると、余計な先入観のない目にはどの魚も等しく並列に映る。その中から自分の「好き!」という気持ちそのままに「お気に入り認定」したのがきっとこの魚なのだ。
何が好きなのだろうと想像しつつこの魚を見ると、メバルの仲間でも寸詰まり度の高いコロンとした体型と、その体型に相応しい愛嬌のある短めな顔つきが可愛らしい。色の美しさもある。誰かの「好き」につられてよく見てみると、少しずつ魅力が分かってくる。
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図鑑を眺めるのは楽しい。その楽しさは3つの要素からなると思っている。
ひとつ、ピクチャーブックとしての「美」の快感。ふたつ、未知のものに出会えるという新たな「知」の快感。そしてみっつめは、人間が世界をこうして名づけ、分類し、理解してきたのだという、膨大な時間を伴う営みへの畏敬と感動の快感。
近ごろの図鑑は大半が写真になっているけれど、特にこのみっつめの要素を満たしてくれるのはやはり「絵」の図鑑だと思う。なぜなら写真はあくまでその被写体の個体を示すものでしかないけれど、図鑑の絵はその種の特徴を抽象して整理したうえで再び具象化するという人間の行為を経て、実際には世界のどこにも個体として存在しない「種」の理解そのものを表したものだからだ。その絵には、生き物の個体差のどこまでを同種として許容し、その種を定義づけてきたかという人間の苦闘が込められているような気がする。