2015年02月13日

ナマズ Silurus asotus

Silurus_asotus

ナマズは日本の妖怪のイメージそのものだ。ぬらりと生々しくて薄気味悪いけど、どこかユーモラスで愛嬌がある。そして何やら人智を超えた不思議な力を持っている。
実際、江戸時代の人々が絵に描いたナマズは大抵クジラのように大きかったり、着物を身につけて喋っていたりするので、それはもう妖怪と呼ばれているものたちと何ら変わらない。

民俗学がとうの昔に学術的に明らかにしていることだと思うけど、日本の妖怪たちには人々の日常生活の似姿のようなところがある。笑ったり泣いたり酔ってはしゃいだり隣人に眉をひそめたり、突き詰めれば意味なんて無いし取るに足りないことばかりだけれど、一人ひとりの人間にとってはそれこそが人生そのものである日常生活と同じものが、妖怪たちにも当然あるものとして描かれている。自分たち人間の世界から膜一枚隔てたところに、姿は違えど同じように日々を生きている存在があるということへの繊細で愛情に満ちた想像力。それがあるからこそ、妖怪は恐怖の対象であるのと同じかそれ以上に、愛着と畏敬の対象だったのだと思う。

身近な川や水路にひそんでいて、夜になるとぬるぬると音もなく泳ぎ回り、魚やカエルを丸呑みにする大きな生き物。そう考えれば、現代人からすれば「魚の一種」にすぎないナマズも昔の人にとっては十分に「膜の向こうの存在」であって、恐怖と愛着と畏敬の対象だったんじゃないかと想像がつく。
お正月に妻の実家脇の水路を覗き込んでいると、大きな頭をした50センチほどのナマズが突如水草の茂みから現れて、小鮒の群れを散らして悠々と泳ぎ去った。コンクリートとアスファルトに囲まれて相当に人間の世界に圧されてはいたけれど、ふと「膜の向こう側」を感じさせるような異形の存在の、堂々たる泳ぎ姿だった。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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