
目の前の青い海のどこを見ても小魚の影で湧き返っているような真鶴の堤防で、足下に揺れているメカブの陰にそっと仕掛けを落とすと、すすり込むようなアタリとともにこの魚が釣れてきた。
繊細でありながらしっかりと主張する鮮やかな黄金色。かれがその身を潜めていたメカブの煮汁で何度も何度も草木染めをしたら、こういう色になるんじゃないかと思う。美しい背中のモザイク模様をなす赤紫色と黄土色は、海藻の色をそのまま身に纏ったかのようだ。
形もいい。わずかに上唇の突き出た大きな口に、肉食魚らしく洋梨型に尖った黒目、条が鉤爪のように飛び出した胸びれ。体の前半分はカサゴによく似ていかつい雰囲気だけれど、後ろ半分は打って変わって滑らかで、無闇な棘がなく手触りの良い背びれ尻びれはアイナメを思わせる。岩礁帯の魚の魅力が、この20センチ足らずの小さな体躯に洗いざらい詰まっている。
この美しさをしっかりと写真に残しておきたい一方で、かれを海に還すまでの限られた時間、レンズ越しではなくもっと直接目に焼き付けておきたい。その葛藤に苛まれて、カメラを構えたり下ろしたり、撮影用のケースを目の高さまで持ち上げたり自分が逆に這いつくばったり。そんなことを繰り返しながら、ケースの中で撮影者に劣らず落ち着きなく身を翻すかれに、100回以上シャッターを切った。