2015年03月20日

エゾイソアイナメ Physiculus maximowiczi

Physiculus maximowiczi

いつも行く真鶴の堤防で夜釣りをしたことがあった。日中は小魚が絶えず竿先を震わせてくれるこの海も、日が沈むとそういった活発なアタリはパッタリと途絶える。小魚たちが物陰に身を潜めて寝静まった後は、夜行性の捕食者たちが闇の中で目を光らせる時間になるのだ。
昼間の海の賑やかさにすっかり慣れてしまった身には魚信の無さが耐えがたく、「今エサを求めてウロウロしてる魚なんていないんじゃないか」という疑念が湧いてくる。暗闇で竿先がよく見えないことも相俟って、集中力がどんどん薄れていく。

すると突如、竿をひったくるような激しい振動が手に伝わった。慌てて竿をしゃくり上げたけれど空振りだった。魚の大きさに対して針が小さすぎたのかもしれない。そう思って針を一回り大きいものに替え、同じ場所に仕掛けを沈めた。何度めかに同じアタリで釣り上がったのが、このエゾイソアイナメだった。

ぬらぬらとした体に大きく裂けた口、「普通の魚」のバランスを逸脱した極端に小さな尾びれ。撮影用のケースの中で荒い息を吐きながら目だけをギョロギョロ動かしているその姿は、何かの間違いで浅海に迷い込んだ深海魚みたいだ。実際、近縁種のチゴダラは深い海の底にいるというから、見た目はそのままに浅い海に適応していったのがエゾイソアイナメということなのかもしれない。

針を外そうと口を開くと、喉の奥に先客がある。出てきたのは既に息絶えた小さなコケギンポだった。ついさっき丸呑みにされたものらしい。真っ暗な海の底で、この獰猛な捕食者が獲物を求めて岩の間を縫う姿を想像すると、昼間無邪気に波間を戯れているように見えた小魚たちの過酷な生存競争に身震いがした。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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