2015年04月10日

タライロン Hoplias aimara

Hoplias_aimara

いま上野の国立科学博物館で「大アマゾン展」をやっているけど、19年前に大阪のエキスポランドでもやはり「大アマゾン展」があった。
目玉は「ブラックタライロン」なる怪魚だった。アマゾンの秘境に棲む、大きくて凶暴で太古の趣を感じさせるシーラカンスのような風貌の魚。「タライロン」という響きの格好良さはこの魚にぴったりに思えたし、しかもそれが「ブラック」ときたら、中学生の心を鷲掴みにする要素は概ね揃っていた。

記憶の中では少し厚めの雲がたれこめた日に、母と見に行った。正確なその日付はもはや知る由もないけれど、1996年のある平日だったことは間違いない。当時のぼくは不登校で、時折そうやって平日に母と遠出していた。曇り空のエキスポランドはガランと人が少なかった。その風景を思い出すと、このしっとりした空気を思う存分独り占めできるという嬉しさと、不登校の後ろめたさとが、味わいを伴って心に蘇ってくる。

タライロンは思ったほどには大きくなかったし、ただじっとしていて凶暴さは窺えなかった。お土産物屋さんで、母に『魅惑の熱帯魚T』というポストカードのセットを買ってもらった。大アマゾン展のオリジナルのものではなかった。けれどもこのポストカードは、あの日の断片を色つきで思い出させてくれるものとして、幾度の引越しを経ても手放すことなく本棚にある。久しぶりにタトウを開いてみると、「でかいやつを母と見に行って買ってもらった」というメモが出てきた。一人暮らしの大学生の頃、やっぱりこうしてポストカードを見ながらあの日を思い出して、その記憶が失われることが怖くなって書いたものだったように思う。大した情報量の無いよれよれのこのメモを、ぼくはこの先あと何度こうして見返すことだろうか。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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