2015年05月08日

ムラソイ Sebastes pachycephalus

Sebastes pachycephalus

ムラソイに憧れ続けていた。

カサゴ属とは違うメバル属の魚でありながら、顔や体つきは同属の面々よりもカサゴによく似ていて色違いのように見える。色違い、というのは蒐集欲を刺激する「鉄板」ポイントだ。なんとかこの魚を手にとってみたい!そう思って、ここ数ヶ月いろいろな人の釣行記を読み漁ってはムラソイがいるらしき港へ釣りに行ったけれど、不発続きだった。カサゴは釣れるけれど、ムラソイが釣れない。ネットでムラソイであると気付かれずに「カサゴです!」と紹介されているのを見たりすると、憧れの魚に巡り合えず身を焦がし続ける我が身の不運と羨ましさに歯噛みする思いだった。

そんなムラソイに、はるばる片道4時間かけた伊豆稲取の海でとうとう出会った。港の短い堤防のたもとで、基礎の岩組みの隙間に落とし込んだイカの切り身に食い付いてくれた。スポンと引き抜いた魚体はカサゴにしては万遍なく茶色くて、もし違っていても落胆しないよう十分保険をかけつつ心の中で咄嗟に「ムラソイだ!」と叫んだ。手の中に納まったのは確かに、憧れ続けた魚だった。

そこは潮が引けば水深1メートルを切るんじゃないかというほどの浅場だった。確かにこれまで読み漁ったネットの記事でも、ムラソイはカサゴよりも浅場の障害物の隙間を好むというのを何度か目にしていた。けれども釣り人のごく一般的な心理としてやっぱりある程度の水深がある方が釣れる気がするのと、僕自身障害物の隙間を狙う釣りがあまり得意ではなくて(仕掛けが引っ掛かってしまうストレスに弱い)、気分的にそういう場所を避けていた。それでもカサゴは釣れるから、いつかはムラソイも釣れるだろうと思っていたのだった。でも、いくら似ていてもやっぱりカサゴとは別の魚。ムラソイにはムラソイの心地好い住処のあり方というものがあったのだ。

初めて出会ったムラソイは、幼い頃に何かに襲われでもしたのか片目が無かった。そのせいなのか、それともこの種に特有の顔つきなのか、撮影用のプラケースの中でこのムラソイはずっと真っ直ぐに目を見開いて、固い顔をしたままだった。誰も守ってくれない海の中を片目で生き抜くことの厳しさが、そこに表れているような気がした。



posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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