ギンポといえば江戸前の天ぷらネタとして美味いと評判の魚らしい。だから三浦半島西岸の小さな磯でこのニョロリと長い魚を初めて釣ったとき、持って帰って食べてみようかしらという考えが一瞬頭をよぎった。けれどもいつも魚を持ち帰る用意をせずに釣りをしているものだから、ほんの少し未練を感じながら元いた潮溜まりに返すことにした。結果的にそれは半分正解だった。天ぷらネタのギンポだと思っていたその魚は「本家」とは科レベルで異なるダイナンギンポで、あまり食用にしないものらしいと後で知った。ただ、釣り人の中にはこれも本家にひけを取らない味だと言う人もいるから、おそらくは実際美味いんだろうなと思う。
つぶさに眺めてみると、意外にもなかなか獰猛な肉食魚の顔をしている。目から吻にかけての部分だけを見ているとハタ科のようなバランスで格好良い。この顔を見ていると、恐ろしい見た目の魚として水族館の定番であるオオカミウオがギンポの仲間であるということにも納得が行く気がしてくる。その日はタイドプールや消波ブロックの隙き間での穴釣りで、近縁種のベニツケギンポを交えつつ4尾釣れた。うち1尾は浅い海底に見えているところへ釣り餌を落とし込むと電光石火で身を翻して食いついたもので、見た目だけでなく行動も思いきりのいい肉食魚のそれなのだと知った。
