
伊豆大島へ1泊2日で釣りに行った。ビジネス街である浜松町の近くの桟橋から、高速船でわずか2時間。島の中央には灰色の層雲を従わせた火山が悠然と構え、大きな消波ブロックに打ちつける荒波がどうどうと空気を震わせるさまは、同じく火山の島であるハワイ島で見たワイピオ渓谷の荒々しい神々しさを、少し彷彿させた。
同行の首藤さんから「伊豆大島は足下で大物が掛かりますよ」と予め聞かされていた通り、着船した岡田港での1時間ほどの様子見の間に30センチほどのオオモンハタが釣れる。石垣や竹富で果たせなかった「ミーバイ」との対面をあっさりクリア。その後島の中心地である元町に移動し、宿へのチェックインを済ませた後の元町港での釣りで、今度はこのアカハタがイカの切り身に食いついて来てくれた。少しずつ陽が傾いて暮れなずんできた堤防の上で、燃えるような緋色が目に眩しい。
食べる釣りは滅多にしないのだけれど、その日の宿は持ち込んだ魚を快く料って晩の食卓に並べてくださるということだったので、活かしたままバケツに入れて持ち帰った。宿のおかみさんは「きれいな魚だねえ」と言って浅いトレイにアカハタを横たえて台所へ戻っていった。元気なはずのアカハタはちっとも暴れなかった。小一時間後、宿の夕食に舌鼓を打っているところへ、おかみさんが刺身になったアカハタを運んできた。うっすらと血合いののった透明感のある白身は、ほどよい歯ごたえと甘みがとてもおいしかった。
食べる釣りをしないことはポリシーでもなんでもなく、ひとえに「釣りの目的が食べることではないから」というにすぎないのだけれど、「自らの手で息の根を止めることへのかすかな抵抗感」という甘ったれた理由もないではない。トレイに載せられて台所へ消えたアカハタが、その後にはもうきれいなお刺身になって出てきたことで、見づらいシーンは見なくて済んだと内心喜んでいたのだけれど、その後おかみさんが「ありゃ生命力のすごい魚だね。はらわた出してもまだ動いてたよ」だの、「頭落としても口パクパクしてたよ」だのと生々しいことを言うものだから、あ、はい、すみません、と自分の甘えを心の中でこっそり謝った。おかみさんと、何よりアカハタに。