
(左から)グラスハチェット Carnegiella myersi / マーサハチェット C. marthae / マーブルハチェット2亜種 C. strigata strigata, C. strigata fasciatus / シルバーハチェット Gasteropelecus sternicla / トラコカラックス Thoracocharax stellatus
熱帯魚に興味を持てば、誰しもじきにこの魚の存在を知ることになる。その名の通り手斧(hatchet)のように腹部が薄く張り出した体形だけでもユニークなのに、それが大きな胸びれを使って水面上にジャンプするという「おもしろ奇魚」としてアクアリストに古くから愛されてきた魚だ。いま、小型魚を扱っている一般的な熱帯魚店ならマーブルはごく普通に手に入るだろうし、僕が熱帯魚に入れあげていた20年前はシルバーや、少し大きめのショップならトラコカラックスもよく見かけた。最近は水槽小型化の傾向を受けて、シルバーやトラコカラックスよりも体の小さなグラスやマーサの方が幅を利かせている。昨晩立ち寄った「市ヶ谷フィッシュセンター」でも、ハチェットのラインナップはグラス、マーサ、マーブルの3種だった。
ショップでは水面付近を漂うように群れて、ブクブクの水流にただ揺られている姿をよく見かける。けれどもかれらの故郷であるアマゾンの過酷な生存競争下ではまさかあんな風にボンヤリしているはずもなく、大きな胸びれをピンを持ち上げて、腹部の鱗をきらめかせてキビキビ群れ泳いでいるに違いない。特にトラコカラックスは最大で10センチにもなるというから、日本のショップでの姿を見て「ちょっと金属光沢強めのシルバーハチェット」程度の認識でいると、現地では度肝を抜かれること請け合い。子どもの頃からの魚好き、それもハチェットを含む南米の小型カラシンに随分熱中したわりには、アマゾンへの憧れはさほどないというのが正直なところなのだけれど、名刺サイズ級のトラコカラックスが群れるさまはぜひ見てみたいという思う光景の一つだ。