2015年11月13日

キュウセン Halichoeres poecilopterus

Halichoeres_poecilopterus
(上) ターミナル・フェイズ(性転換してオスになったもの)
(下) イニシャル・フェイズ(メスだけでなく、生まれつきのオスもいる)


キュウセンは性転換する魚で、若いうちは全部メス。そのうち一部は成長するとオスに変わるのだと思っていたのだけれど、その知識は古いらしい。イニシャル・フェイズと呼ばれる若い段階にはメスだけでなく生まれついてのオスもいて、その姿のまま生殖活動に参加するものもいるということだ。そういうオスは、性転換してターミナル・フェイズとなったオスに比べて体も小さくハーレムを持つことができないため、ハーレム内でメスにまぎれて暮らし、こっそり生殖活動に参加しているそうだ。

同じ種の中でオスの生殖戦略になぜそんな2つのまったく異なる型ができたのだろうかと不思議に思っていたのだけれど、今朝読んだWebの記事『新石器時代に生殖できた男性は「極端に少なかった」』で腑に落ちたように思った。遺伝的研究の結果、8,000年前に生殖を行うことができた人類は女性17人に対して男性1人の割合であることが分かったという記事だ。新石器時代の文明の発達により男性の競争が激化し、一部の男性に力が集中した結果、大半の男性は自らのDNAを残すことができなくなった可能性があるという。

自らのDNAを残すことがもし「個」の「本能的な欲求」なのだとしたら、その欲求に従って競争が激しくなるにつれ「一人勝ち」が起こる可能性も高くなる。それは勝ち残った「個」にとっては歓迎すべき事態だろうけれど、「種」にとっては危険なことでもある。遺伝的な多様性が失われることで将来的な種の適応能力が低下するだろうし、そうでなくとも一人勝ちした「個」に不測の事態が生じた場合にそこで生殖活動が滞ってしまうから。

人類がおそらく「ハーレム型」でない生殖形態をとることでそのリスクを乗り越えたのと同じように、キュウセンは「ハーレム型」の中にそれを逸脱するオスを内在させることで、種としての強さを保ってきたということなんだろう。
考えてみれば人類の生殖戦略なんて「2つ」どころじゃなく個体ごとにさまざまなのだからキュウセンに驚く必要はないし、ある仕組みの中にそれを逸脱するものを内包しておくことが仕組みを存続させるための秘訣であるということは非常に示唆的で、キュウセンの性転換から思いがけず人間のことを考えさせられた。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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