
梅干しに、カタクチイワシ
イワシのたぐいを煮付けるなら、選択肢は生姜か、梅干しか。
梅干しは実家の母が送ってくれたものが、なかなかすぐには消費されずに冷蔵庫で眠ったままになっているもの。そうして長らく手を付けていないくせに、梅煮にするとなると一度にみっつもよっつも使うのが勿体なく感ぜられて、結局はまた後生大事に冷蔵庫の奥に戻して生姜を刻むことになる。梅干しの方は久々に降って湧いた活躍のチャンスを逃して、次いつ取り出されるのか分かったものじゃない。
祖母は料理があまり得意ではなかったというのが母の談で、母はその分自分の子どもには豊かな食をと思って随分努力したらしい。味噌や梅干しを作るのを毎年の恒例としていたことは、祖母からそういうことを学ぶことなしに都会のマンション暮らしをしてきた母にとっては最初のハードルが高かったに違いない。母の梅干しはキュウっと酸っぱくて、たまによそのおうちや市販の梅干しでしょっぱいのや甘いのと比べると、母という人間の、いい意味で真っ直ぐに偏ったあり方がそこにしっかりと表れているような気がした。そんな、母の来し方が込められた梅干しが、いつまでも新しく手に入るわけではない。そう思うと、いつまでも冷蔵庫の奥にお守りのように鎮座させているのでもいいかな、という気にもなる。
人生初の梅煮は母のもので、かなりしっかりと梅干しの味がするものだったから、随分ぜいたくに梅干しを使っていたに違いない。やぶれた梅の皮がごてごてとイワシにまとわりついていた。梅煮ならば、やっぱりそこまで梅干しを活躍させたい。
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今回の記事はどちらかというと梅干しが主題で「梅の譜」のようになってしまったけれど、主役のカタクチイワシがデザインにあしらわれたハンカチが「H Tokyo」さんから発売されます。1/21(木)夜には発売フェアのオープニングレセプションも。詳しくはこちらをご覧ください。