2016年01月15日

マイワシ Sardinops melanostictus

Sardinops_melanostictus_160115

水族館のイワシといえば円柱型の水槽をぐるぐる回り続けるものというイメージだったけど、近頃は主役級の大水槽に美しく群れを作る姿をよく見かけるようになった。

一尾一尾が、脆くて剥がれやすい大ぶりな鱗に包まれた体側をきらきらと輝かせながら、群れの内側へ内側へとゆっくりと巻いていく。それが群れの形をまとめつつも絶えず変化させる。まるで一つの大きな生き物のようだ、などと月並みに考えていると、ときおり突き当たってくるエイや大型魚を避けて、静まった水面に石を投げ込んだ時の王冠のようにワッ!と驚きの形をした穴が開く。そうか、これは確かに意思をもった一つ一つの魚の集まりなんだと我に返る目の前で、また群れはゆっくりと一つの塊へと戻っていく。

大水槽に同居する大型魚にとっては頭の上をごちそうが泳いでいるようなものだけど、食べられないんだろうか。そう思ってたずねてみるとやっぱり食べられているようで、定期的に追加しないとどんどん減ってしまうそうだ。それを聞いて改めて水槽を眺めてみると、限られた空間に捕食者たちと閉じ込められているはずのイワシたちが、実に泰然と、群れを形作って運動し続けている姿が一種異様なものに見えてくる。われわれ人間であれば徹底的に岩陰や設備のすき間に逃げ込んで決して出て来はしないだろうに、イワシたちは、その一つの系として完結した空間の中で、ただゆっくりと内側へ内側へと巻き続けている。滑らかに形作った群れを、マグリットの絵の林檎のような奇妙な静けさとともに、青い虚空に浮かべている。


posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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