2016年03月18日

スズメダイ Chromis notata

Chromis_notata

大阪で生まれ育って、小学校の高学年頃から始めた釣りの行き先はもっぱら南港や泉南の堤防だった。父との釣りはいつも楽しくて、岸壁から海に向かって垂れ下がる短竿の穂先や、しゃがみこんで何やら仕掛けを結んでいる父から聞こえてくる防寒着の衣擦れの音、街の灯を映して赤らんだ曇り空に黒々と浮かぶかもめ大橋の影と波に揺られる赤い電気ウキの光、そういったものを鮮明に脳裡に呼び起こすたびに、自分がメガネ姿の小学生のままここにいるような感覚に見舞われる。
そして、そんな記憶の中の海はたいていドロンと灰みがかって濁っていて、魚の姿なんて見える方が珍しい。そのことを思い出すと、僕は愛情がそのほとんどを占める万感とともに「きったない海やったなあ」と笑いたくなる。

だから、それこそ20年近くぶりに熱心な釣りを関東で再開したとき、真鶴や三浦の底まで見える透明な海に泳ぐとりどりの小魚たちには衝撃を受けた。そんな中でもこのスズメダイとメジナの子どもたちの存在感は際立っている。ベラたちほどには気ままでなく、ネンブツダイたちほどにはきちんと群れることに熱心でない。一個体一個体が自分の遊泳力に自信を持っていそうな、きびきびとした心地好い泳ぎ姿で中空を戯れている。そんな光景を思い起こせば、たちまち頭上にはスカンと晴れた空が、目の前ぐるりには青い海と人影のまばらな堤防がゆらりと立ちあらわれる。

エサ盗りだと言われてあまり歓迎されないことも多い魚だけれど、そんな豊かな海の象徴として僕にはとても愛くるしい。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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