2016年05月06日

ハゲブダイ Chlorurus sordidus

Chlorurus_sordidus

家の近くの浜ではもっぱら膝丈ぐらいの水位の浅瀬を這い回るシュノーケリングだけれど、釣りに素潜りにと海遊びの名人のIさんに連れていただいて、沖合のサンゴ礁を覗きに行った。沖合、といっても海底からサンゴがうず高く積み上がっているから水深はわずか2メートルほど。そこをプカプカ浮かびながら、眼下を舞い泳ぐ色とりどりのベラやチョウチョウウオやスズメダイを眺めて楽しんだ。図鑑や水族館でしか見たことのない魚たちが、誰に連れてこられたわけでもなく、何のラベルを付けられるでもなく、ただ自然の中に存在している。そのことへの感動と同時に、改めて人間が自然と向き合ってきた長い長い努力にも思いが至った。この果てしなく広い海の生き物たちに名前を付け理解しようとし、水槽の中にこの環境をできる限り再現して社会に共有しようとしている。なんという遠大な根気が人間を衝き動かしていることか。

死サンゴの山が崖になって、遥か10メートルいじょう下の海底へ落ち込んでゆくその際のところで、サンゴを口にしては吐き出している雌型のブダイが目に付いた。隣で緩やかにペアをなしているように見える雄型の個体の、その見事な青の発色はもちろん素晴らしいのだけれど、それ以上にこの雌型の渋い美しさに釘付けになった。上から見ると思った以上に大きな胸びれをぱたぱたと羽ばたかせながら、サンゴの山をすいすいと泳いでゆく。慣れない足ひれを懸命に動かして後を追うと、体側に白い斑点が生じたり尾柄部分に真っ白な帯が浮き出したり、見る見る体色が変化する。けれども滑らかに丸い額に浮かぶ黄色い虫喰い紋と、下あごから喉にかけての深みある紫色は常に変わらない。これを脳裡に焼き付けようと後をつけながら必死に目を凝らしたけれど、マスクの曇りに気を取られてもたつくうちに、彼女はスイと死サンゴの丘の向こうへと泳ぎ去ってしまった。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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