2016年06月03日

“アカマチ”(ハマダイ) Etelis coruscans

Etelis_coruscans

「ハマダイ(あかまち)を、機会があったら眺めておかれると、長いタイムスケールで見ればいろいろと幸いではないかと思います(福を呼ぶ魚、みたいですね)。大きく、美しい色と形から、熱帯の海を代表する魚の一つだから、画題としての依頼もあるやもしれません」

石垣島に移り住む直接の理由を下さったKさんとのご縁はわずかここ1年半余りのもので、初めて直にお会いしてからは1年すらも経っていない。そのKさんがお会いしてより時折下さるメールの中に、アカマチのことがこう書かれてあった。アカマチは沖縄では「三大高級魚」のひとつとして特別な敬意を得ている(ように思える)魚だけど、僕がこの魚を意識するようになったのはKさんのそのメールに触れたからだった。石垣への移住などというのは当然まだその萌芽すらなかった時点の話だれど、それ以降アカマチは僕にとって、絵を描いていくうえでの覚悟や運をためすような存在として、心の片隅にひっそりとどまった。

石垣島へやってきて間もない頃、八重山の海を知り尽くしたIさんの船で、黒島沖へ深海釣りに連れて行っていただく僥倖があった。Iさんが「アカマチ見たいですか」と訊いてくださるので、気負い込んでハイと答えた。Iさんは「狙いどおりに行くか分からんよ」と笑いながら、地点と深さを決めて仕掛けを沈めた。2度めの巻き上げで、体長(尾びれのつけねまで)で30センチくらいのアカマチが釣れた。どちらかというと朱系の、郵便ポストみたいなべったりとした赤を想像していたのだけれど、甲板を跳ねるアカマチは透明感のある鱗の下にマゼンタや群青や紫を宿してとても涼やかに美しかった。Iさんがこうしていとも簡単げに見せてくださったことで、僕が試されている覚悟や運は一段階先に進んだように感じられて、身が引き締まった。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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