2016年06月17日

チョウチョウコショウダイ Plectorhinchus chaetodonoides

Plectorhinchus chaetodonoides_160617

新婚旅行で訪れたワイキキの水族館で、一尾悠々と泳ぐ姿に魅せられてこの魚が好きになった。立派な体つきに洒落者揃いの同属の中でも、とりわけ頭でっかちで唇が大きくて(そもそもコショウダイの仲間はsweetlipsの英名を持つほど唇の厚みに特徴があるのだけれどその中でも特に)、大振りなひれを張って飛ぶように泳ぐ姿はとても印象的で、魚の絵を本気で描いてみようかなと思い始めた頃によくこの魚を選んでいた。この「魚の譜」も初っ端4本のポストのうち3本がコショウダイの仲間なのだけれど、チョウチョウコショウダイがうまく描けずに少し意気消沈した覚えがある。

そんな思い入れのあるこの魚に自然の海の中で出会ったのは、石垣移住後初めて自力である程度の深みまで泳いで出た日のことだった。浅場が終わるある地点を超えると泳ぐにつれて海底がどんどん眼下に遠ざかり、濁った水の向こうから大きなサンゴの群落がぼんやりと姿を現わしてくる。恐怖心混じりの高揚感に見開いた目に、浅場では見られなかったとりどりの魚たちの舞い泳ぐ姿が飛び込んでくる。これまでシュノーケリングをしたことがなかった僕にとって、水族館や図鑑で見慣れた魚たちに実際の海で出会う感動は少し複雑だ。姿かたちは見慣れたものだから「ああ、いるいる」という「当たり前感」が先に立ち、少し遅れて「おおほんとにいるんだ…すごいすごい!」という感動がやってくる。

けれども、サンゴの群落と群落のちょうど「谷」になったところで、海底の白砂を背景にホバリングするチョウチョウコショウダイの姿を認めた時には、自分の思考の速度を超えて感動が押し寄せてきて、喉がぐっと詰まって涙が出た。思考を経ずに、説明できない情動で涙が出るなんていうのは初めてのことだったから、自分にもそんなことがあるものかと心地好かった。5メートル向こうの海底を怖いなと常にうっすら思いながら、ゆったりとひれを動かす姿を追いかけてしばらくのあいだ波に揺られた。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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