2016年07月01日

ホンソメワケベラ Labroides dimidiatus

Labroides dimidiatus
(上から)ホンソメワケベラ Labroides dimidiatus
ハワイアンクリーナーラス L. phthirophagus
ソメワケベラ L. bicolor
スミツキソメワケベラ L. pectoralis


芸能人を街で見かけて「ああ、あの人って実在するんだ…」と思うことがある。子どもの頃からテレビで繰り返し見続けたような芸能人はあくまで「テレビの中の人」だから、同じ世界で同じ空気を吸ってごく普通に生きていることが何やら軽い発見のように思えてしまう。
それと似たことが、今年33歳にして初めて南の海でシュノーケリングをして目白押しに起こった。昔から何度も図鑑や水族館で見てきた魚たちが、次から次へと眼下に現れる。そこで繰り広げられる魚たちの生態に僕は釘付けになった。それが人為的に作られた光景ではなく、いま自分は広大な海の中で魚たちの日常に偶然接しているのだということを、かれらの振る舞いのひとつひとつが実感させてくれた。

他の魚についた寄生虫や食べかすをついばむホンソメワケベラのクリーニングは、海の中ではありふれた光景だ。けれどもそれを初めて見たときの僕の感想はやっぱり「うわ、ホンソメワケベラがほんとにいる…しかもほんとにクリーニングしてる!」という驚きだった。客の魚は各ひれを大きく開いたままピタリと静止し、ベラはスイスイと漕ぎまわりながら体表をついばむ。やりとりは不意に始まり、流れ去るように終わっていく。その様子はあまりにもさりげなく自然で、幾度も眺めるうちに人間が「クリーニング」として殊更に取り上げるのが何か大仰なことのようにすら思えてくる。これはその他の名付けられていない無数の行為と同様、魚たちが海のいたるところで繰り広げている日常なのだ。

この仲間はいずれも同じクリーニングの習性を持っている。僕が実際に見たのはホンソメワケベラとソメワケベラの2種だけれど、僕がたまたま見たときソメワケベラの客のブダイはクリーニングを嫌って身を翻していた。ホンソメワケベラではそんな光景は見たことがない。ホンソメワケベラの方が圧倒的に「店舗数」が多く、人間界にも名が通っているのは、クリーニングの腕前の違いによるのかもしれない。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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