
幼魚は黒地にぐにゃぐにゃした曲線模様。成魚になると曲線が消え、体の中央部分が明るいオリーブ色になって斑点が現れる。これは成魚の気配が匂いはじめた若魚
石垣島の北部、伊原間(いばるま)の海に初めて入った。同じ石垣島といえど、場所ごとに海の様子はさまざまに異なる。その日入った浜では、砂地に大きな岩の塊が点在し、そこにサンゴが活着して魚の棲み処になっていた。
ある岩陰にサザナミヤッコの幼魚を見つけた。黒の地色に青と白の特徴的な曲線がよく目立つ。南米のチョウにも同じようなぐにゃぐにゃした曲線があしらわれたものがあるけれど、こういうラインには捕食者を幻惑するような働きがあるのだろうか。しっかりと写真に撮りたくて息を溜めて潜るのだけれど、岩の下にスイと入り込んだり岩の周りをぐるぐる逃げたりで埒があかない。
あきらめて別の岩塊を巡っていると、この絵の通り幼魚の曲線の向こうに成魚の体色がかすかに現れはじめている個体が浮かんでいた。あっという間もなく岩の下へと滑り込んでしまったけれど、体形も大人びて背びれと尻びれの後縁がスパッと直線的な三角形に尖っているのがはっきりと目に焼きついた。その美しさは最初に見た幼魚以上で、なんとか写真に納めようと岩陰から出てくるのを待ったのだけれど、いっこうに姿を見せない。
魚種によるけれど、成長して大きくなるにつれどんどん用心深くなる魚がいる。体が大きくなることで捕食のリスクは低下するはずなのにどうしてだろうと思っていたら、「大きくなるにつれ用心深くなる」のではなく「用心深い個体だけが大きくなれる」というのが真実らしい。今日のサザナミヤッコ2個体の比較もそれに当てはまるかな、などと考えつつ波に揺られて待ったけれど、結局二度とは姿を現さなかった。