
数年前に新江の島水族館へ行ったとき、「今上天皇のご研究」コーナーでこのタメトモハゼを見た。優に30センチは超す大型個体で、ひれや体の輪郭に老成魚特有のデコボコした揺らぎがあるのがまた見事だった。ハゼだというのにこの巨体と鮮やかな色彩、日本にいるものとは分かっていても何となく自分には縁遠いものだと思っていた。
それが石垣島へやってきて半年、自らの手で釣ることになるとは当然ながら当時知る由もない。島で長らく魚と接し、ポイントや釣法を知り尽くしたOさんに「ではここでどうぞ」と言われるがままに仕掛けを沈めるのと、竿先がグイと引き込まれたのとはほぼ同時だった。不必要に長い渓流竿を不器用に振り回して何とか引き上げたのは、さすがに今上天皇コーナーの老成魚クラスとは言わないけれど、発色の点では決して引けを取らない立派なサイズのタメトモハゼだった。
針を飲ませてしまったこともあり、早くリリースしないとと焦る僕にOさんが「けっこう強い魚ですよ」と声をかけてくれたので、安心してじっくり眺めることができた。鱗の黄色が印象的な魚だけれど、実際に手に取ってみると「地色」の青磁色に透明感のあるのがとても美しい。その上に並ぶ黄色と、臙脂から煤竹色に渡る暗点とが、どうも八重山のミンサー織を思わせる。まさかミンサー織の起源がこの魚にあるとは思わないけれど、自然と文化とがリンクするように思えるこんな偶然は、見ていて気分がいい。