
お誘いいただいて、与那国島へ2泊3日の旅程で釣りに出かけた。
島の海岸線の大半は険しい崖で、白波がドウドウと砕けて溶け込んでいく真っ青な海には何十キロという大物がうろついている…そんな海にありながら、僕はいつもどおりの小物狙いに終始した。宿をとった久部良の漁港はすぐ足下に見える魚も多彩で大ぶり。そして深夜でも未明でも、真っ暗な海で小魚たちがどんどん釣り針に食いついてくるのが嬉しかった。普通、闇の中では夜行性のものといえどもそんなに次々と釣れはしないものなのだ。
そんな中でとりわけ印象に残ったのがこのヨゴレマツカサだった。
コロンとした体形に、硬質な輝きを放つ鱗が整然と並んでいる。手のひらに載せたとき、繊細な職人のつくった工芸品のようだと思った。博物館のガラスケースの中におさまっている螺鈿の印籠のようなものが頭に浮かんだ。懐中電灯の光をうけてじっとしている様子もまた、シンとした展示室の気配を思い起こさせた。
けっして与那国でしか見られない魚だというわけではない。けれども、このヨゴレマツカサと夜の港で出会えただけでも、この島へ来た価値は十分にあったと思った。