
妻のお母さんは鳥取の山あいの出身で、岡山は倉敷に嫁いでからは瀬戸内の豊かな海の幸をずっと料理してきた人だ。だから帰省するといつも食卓いっぱいのご馳走の中に地物の魚や海老がたくさんで、僕はいつもそれら瀬戸内の魚たちとの出会いと味を目一杯楽しませてもらうのだった。
この年末年始の帰省では初めてヒラの煮付けを食べた。岡山といえばママカリ(サッパ)の国だけれど、ヒラは小魚であるママカリによく似ていながら大きさは50センチを優に超えるという、相貌と大きさの不一致にうんと魅力のある魚だ。姿を見たことがないままなぜか気になっていた魚で、師走に訪れた上海で青魚たちの絵をのびのびと描いたときにも登場させたばかりのことだったから、帰省の日の晩の食卓に並んだそれは僕にとって嬉しいビッグ・サプライズだった。
小骨の多い魚で、調理の際にはハモのように細かく骨切りをするという。とにかく料理上手なお母さんの骨切りは抜群に細かく美しくて、ネットであれこれ検索してみたヒラの調理画像の中でもこれほど美味しそうなものはない。身はしっかりと脂がのってふわふわとやわらかく、とろけるような皮と、細かく切られた小骨のほんのかすかな舌触りはまさに絶品だった。「なぜか気になる存在」だったヒラは、その晩を境に大好きな魚になった。

細かな骨切りが美しい、お母さんのヒラの煮付け。