2017年05月19日

ブリ Seriola quinqueradiata

Seriola_quinqueradiata

子どもの頃、我が家ではお正月の魚といえば「銀だら」だった。母が百貨店で買ってくるのは西京漬けと粕漬けの2種類。どちらもぷりぷりの身にたっぷりと脂がのっているのだけれど、口から鼻へと広がり抜ける香りが違う。前者はこちらの舌にとことん媚びるかのように甘美、後者はあと口にかすかな苦味(今なら、ある種の日本酒を飲んだときに口の中に残る感触と同じだと分かる)があって大人の味。いずれにせよ、それはそれは蠱惑的な味なのだった。

主張のしっかりした味に家族みんなして少し飽きたのか、いつの間にかその習慣から遠ざかり、さらには結婚して年末年始を妻の実家で過ごすようになって、お正月の魚は銀だらから「ぶり」に変わった。年の瀬になると、もともと鮮魚に力を入れている近所のスーパーには木箱に入った見事な寒ブリが並ぶ。その姿にはオーセンティックな「王道」感があって、舌にくっきりと刻まれた銀だらの蠱惑になかなかどうして劣らず魅力的なのだ。

大晦日は祖母の家で過ごし、まだ陽も沈まぬ夕方にはうんと早い晩ごはんになる。メインは自家製手打ちの年越しそば。それにぶりの煮付け、お刺身、竹輪やこんにゃくの炊いたのが、お母さんの立つ台所から次々運ばれてくる。そばを食べながら、うんと分厚く柔らかいぶりの煮付けに箸をつける。ふわりとした身から立ち昇る品のいい魚味は、野菜たっぷりのそばだしによく合った。

大晦日のテレビ番組を見終えて、かしこまった新年の挨拶をしたら寝支度。お母さんは毎年「明日はお餅いくつ?」と聞く。帰省してからのご馳走続きで満足しきっているお腹の調子を伺いながら「2個で!」とこたえると、朝にはキリリと透き通ったお雑煮に白い餅が確かに2個、ふやけて浮かんでいる。そこにぶりの煮付けをドンと載せるのがお父さん流。確かに、昨日そばと一緒に食べた時よりも透き通った味わいで滋味が際立つ。そうしてぶりの風味とともに、新しい年の訪れを実感する数日が進んでゆく。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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