2017年06月02日
クラカオスズメダイ Amblyglyphidodon curacao
石垣島は周囲をぐるりとサンゴ礁に囲まれているのだけれど、一口にサンゴ礁と言っても場所によってその表情はさまざまだ。サンゴの塊が点在する穏やかな礁池を超えたところで荒波の下へゆるやかに入り込んでゆくところ。平坦な礁原から突如崖のようにスパッと海底まで落ち込んでいるところ。一見石垣島らしくない、構造的な岩場が絶え間なく波を受けているようなところもある。そしてやっぱりその表情ごとに、そこに暮らす生き物たちの顔ぶれや振る舞いも少しずつ異なる。
家の前は遠浅の砂浜で、ここはうんと潮が引いてもサンゴ礁の外縁が海面に姿を現わすことはない。浜から沖を目指して泳ぎ始めるとしばらくは丈の低い海草の原っぱが続く。それを抜けると足がつくかどうかぐらいの深さにポツンポツンと岩とサンゴの大きな塊が現れ、さらに進むといよいよ海底が遠のいて海そのものの圧力が増してくる。その向こうはそのまま濁った深みへと消えていったり、再び浅くなってから崖のように落ち込んだりする。
海底が遠のいてゆくと、そこから跳ね返る音が届きにくくなるのだろう、急にシンと静かになる。その静けさに海の茫漠たる大きさを感じて少し不安になるあたりに、クラカオスズメダイが群れている。6、7メートル下のサンゴの群落から上、水深をめいっぱい使って縦に広がったゆるやかな群れだ。統制のとれた動きはなく、個々がひらひらと陽の光を鱗に浴びながら、餌を摂るのか時折きらりと身を翻す。
海底に目をやるとブダイやニザダイの類の黒い影が滑らかに舞っている。ようやく「しらす」の段階を終えたばかりのようなグルクンの幼魚の群れが、パチパチと鱗を煌めかせながらザアッと通り過ぎる。突如目の前に現れた黒い影にギクッと身を縮めると、マングローブ林から流れ出たらしき大きな枯葉だ。それらが繰り広げられる無音の世界が、このクラカオスズメダイの群れから始まっている。
posted by uonofu at 18:00| Comment(0)
| 魚の譜
この記事へのコメント
コメントを書く