2017年07月07日

ゴマフエダイ Lutjanus argentimaculatus

Lutjanus_argentimaculatus

元来ホームランバッターじゃないタイプの選手が「何かの拍子に」ホームランを打ってしまうと、その心地好さが忘れられず、次打席以降もしらずしらずのうちに大振りになって自らのバッティングの型を見失うことがあるという。
僕の魚釣りにおいての「大物」もそれに似ている。常々「大物には興味ないんです、小さくてもいろんな種類の魚と出会えるのが一番…」などと予防線を張りながら釣りをしているのだけれど、突如思いがけない大物が掛かることもある。格闘の末にそれを無事手にすることができたとき、あるいは散々引き回された挙句仕掛けを引きちぎられて強制終了したときはよりいっそう、放心しつつも脳みそにはしっかりと快楽が刻みつけられてしまう。その結果、一回り太い仕掛けでしばらくは同じ釣り場へ通いつめることになる。

ゴマフエダイは、石垣島へ移り住んでから釣りでは最も数多く出会った魚だと思うけれど、一番の大物ー51センチだったーを釣り上げた興奮はいまなお生々しく思い返される。夜の海を泳がせていたルアーがぐいと引ったくられた後、猛烈な勢いで沖へ糸が飛び出してドラグがジジジと鳴った。場所はさえぎるもののない砂浜だったから糸が続く限りどんどん走ってもらって構わないのだけれど、左手にひとつドスンと鎮座した大岩、あれに引っかかって切れるのだけは気をつけないといけない。そう思っていたら、糸の先のまだ見ぬ魚は一目散にその岩へ向かっていく。案の定、糸は岩に引っかかり、魚が暴れていることは伝わってくるもののそれ以上リールを巻くことができなくなってしまった。

この大物の姿を見ないまま逃してしまえばどれだけ後悔するかわからない。そう思うと矢も盾もたまらず、僕の方から岩のところへ魚を迎えに行くことにした。その場で慌ただしく靴下と靴を脱ぎ、足の裏にサンゴ混じりの砂を感じながらザブザブ岩を目指した。水深は大したことなかったけれど、夜の海はやっぱり少し緊張する。岩のところまでやってくると、赤いゴマフエダイが懐中電灯の光に照らされて、波打つ海面の向こうに見えた。大きい!手づかみしようとすると岩から糸が外れて、魚はまた浅瀬で体を斜めにして走る。結局最後には砂浜へ引きずり上げるようにしてなんとか確保。興奮と安堵が心地好く混ざり合い、手の震えがなかなか止まらなかった。僕は普段そういう写真にあまり興味がないのだけれど、この時ばかりは「魚を掲げての自撮り」をしたいと思い、撮った。ハンターが獲物を誇らしげに掲げて写真を撮る気持ちが、少しわかるように思った。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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