2017年09月01日

オニカマス Sphyraena barracuda

Sphyraena_barracuda

2015年の秋、画家の友人を頼って訪れた南伊豆の漁港で、アカカマスの入れ食いを目にした。食い気の立った群れがバシャバシャと水音を立てて、地元の釣り人が投げる金色の小さなスプーンに食いついている。獰猛で、スピーディで、動的な群れをなす。それまで食卓でしか馴染みのなかったカマスというものに、僕が初めて抱いた印象はそういうものだった。

ところが、石垣島に移り住んで深く付き合うようになったこのオニカマスは、その印象とは少し違ったところに魅力がある。オニカマスは群れを作らず、マングローブの根や浜に点在する岩の陰に身を潜め、通りかかった獲物に(つまり僕のルアーに)瞬発的に突進する。だから南伊豆で見たようにバシャバシャと複数の水音が立つようなことはなく、ただ「スパッ!」とか「ガバッ!」という単発の水音が辺りに響く。オニカマスがそうやってルアー付近の水面を切り裂く音は、たとえそれまで釣れる気配がなくボンヤリよそ見しながらリールを回していたとしても、一瞬で全身のすみずみにまで心地よい緊張をもたらすものだ。魚を騙そうとルアーを泳がせつつも、いつしか自分自身の意識が釣り竿と糸を伝ってそのルアーにまで浸透してしまい、魚に襲われる気持ちになる−−ルアーを使ったこの釣りの醍醐味を、オニカマスの突進は余すところなく味わわせてくれる。

ただ一方で、オニカマスはルアー釣りの対象魚としてさほど人気のある方ではない。その理由はひとつには「諦めの良さ」にあるのではないか。ルアーをくわえたオニカマスは、その突進の勢いのままに強烈に横走りしたり時には水面から飛び上がったりするのだけれど、その威勢の良さは長続きしない。たいていの場合かれらは途中で抵抗するのをやめてしまう(というより、短距離走の選手のようにそもそも短いスプリントを前提とした突進なのだ)ので、釣り人はあとはただ重たい魚体を引きずるように巻き上げることになる。ルアーに食いついた魚が何なのか分かっていなかったとしても、巻き上げる途中で無抵抗な重さになれば「ああ、オニカマスか」と判断がつくぐらいのもので、そうやって水面に銀色の細長い魚体を認めた時にはどこか微笑ましいような気持ちになる。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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