2012年08月31日

サッパ Sardinella zunasi

Sardinella_zunasi_120831


標準和名の「サッパ」より、岡山での地方名の「ママカリ」の方がおそらくよく知られているし、何より趣がある。サッパは味がさっぱりしているからサッパらしい。そんなまるで愛情のない名付けよりも、お隣さんからごはんを借りてこないといけないほどおいしくてごはんが進むからママ借り、の方が民話的で温もりがある。(ちょっと調べてみると、サッパの語源も「手漕ぎの小さな舟をサッパと呼んだから」とか、「体が細くて薄いから細小魚、笹魚(ささば)から変化した」とかいうのもあった。どうもこちらの方が説得力がある)

魚の地方名には、やはりその土地土地の人々の暮らしを感じさせるような色のついた音がある。北のほうでは(どのエリアかははっきり知らない)ママカリと同じような成り立ちで「ナベコワシ」と呼ばれる魚がいて、鍋ものにするとおいしすぎて鍋の底までガンガン突っつくから、というユーモアと生活感に溢れた由来。標準和名カサゴを「ガシラ」、同じくカワハギの類を「ハゲ」と呼ぶ関西での地方名も、土地によく似合って人々の顔まで何となく想像できるような気がしてしまう。

「ママカリ」の方が有名なサッパはやはり岡山の魚なのだと感じたのは、岡山の妻の実家を訪れた二年前の夏に、お父さんに誘われて近くの港にサビキ釣りに行ったときのことだ。まだ陽射しがギラつく前の、空気中の水蒸気が金色に照らされているのが見えるようなしっとりと穏やかな朝の海に、ちゃぷんと仕掛けを沈めるとすぐに竿が揺れて銀色の平たい魚が掛かった。それがつまりママカリだった。
サビキというとアジ、サバ、(カタクチ)イワシだと思っていたから、普段は数も少なくてあまり見る機会のない外道のサッパが岡山の海からはザクザク釣れるのは可笑しい驚きだった。「岡山の魚=ママカリ」のステレオタイプが、あまりにもそのまま目の前に現実として繰り広げられるので。なんだか魚たちが律儀に見えた。

持ち帰ったママカリは、お母さんの手によって刺身と素焼きと素揚げになった。決して大きくはない身がくるくると器用に三枚に卸されて、てきぱきと中骨を除かれて皮を引かれて、切り口がすっぱりと美しい透明感のある刺身になった。さっきまで海で泳いでいた弾力ある身が、口の中で生姜醤油の香りと一緒にはじけておいしい。素焼きと素揚げは、少し醤油をつけて頭から齧った。岡山出身の妻には、それが当たり前の食卓の風景なのだった。



 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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