2013年06月14日

トゥッカーノ・テトラ Tucanoichthys tucano

Tucanoichthys tucano

数年前から家には熱帯魚の水槽が一本あって、小型魚ばかりを飼っている。一度レイアウトと魚種を整えると、しばらくの間は成り行きにまかせる。水草はある部分は密に茂るし、ある部分は徐々に枯れて茶色くなり、葉脈だけがふわりと底に折り重なる。そうした見た目が、自然の水景のありのままを表現しているような気がしてとても好きだ。マメな手入れが苦手なのを、そう言い訳しているという側面もあるけれど。

数年に一度、レイアウトをがらりと変えたり、新しい魚を加えたりしたくなって、熱帯魚店に通い詰める時期がくる。その間は熱に浮かされたようになって、「小型美魚」特集の古い雑誌を引っ張り出しては延々と眺めている。平日は仕事終わりでも営業時間内に滑り込めそうな店のことばかり考えてるし、休みになると満を持して少し遠方でもお気に入りの店に出向いていく。住人を増やすのにはそれなりにリスクが伴う(今いる魚との相性や、水の汚れやすさ)から、実際には売場の水槽を眺めて楽しんでばかりいる。

トゥッカーノ・テトラを初めて見たのは(そして今のところそれが最後)、そうやって出向いた銀座の百貨店、確か松屋の、屋上の観賞魚コーナーだった。もう今ではなくなってしまったみたいだけど、そこは百貨店の屋上離れした玄人好みの品揃えと生体たちのコンディションの良さが心地好い店だった。トゥッカーノ・テトラは1尾1,200円で売られていて、それはこういった小型美魚の品揃えが充実した店では決して珍しい価格帯ではないし、トゥッカーノ・テトラの値段としてもどちらかというとかなりの安値なのだと後で知った。

彼らはとにかく可愛らしかった。せいぜい2センチほどの、うっすらと黄〜黄緑がかった体、それはおそらく背景の水草の色が透けていたのだと思う。それに白目の部分が水色にキラキラ光る大きくて円らな目、体側にはアンバランスなまでに太いライン。このラインの濃さがまた珍しいほどで、喩えて言うならば染料の黒ではなく、顔料みたいに不透明でこってりと乗っかった黒だ。それが体の「地の部分」の透明感との間に見慣れないコントラストを為していて、それがいかにも「珍しい魚の風格」を醸しているように見える。

そのときの懐具合からすれば「買う」という選択肢は端から無いはずだったけど、その姿のあまりの魅力に、「買おうかどうしようか迷っているフリ」を自分自身に対してする、というのをしばらくの間楽しんだ。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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