2013年12月13日

リーフィーシードラゴン Phycodurus eques

Phycodurus eques

世界屈指の奇魚であるリーフィーシードラゴンの実物を初めて目にしたのは、小学6年生の修学旅行で訪れた鳥羽水族館でのことだった。20年近くも前のことだ。

館内見学にあたって渡された子ども向けのワークシートに、ぬりえのように黒の線だけで描かれたリーフィーシードラゴンのページがあった。絵の上に「リーフィーシードラゴンには 背びれがあるよ! どんな背びれか 描きこんでみよう!」と書いてある。低学年の頃から池の魚や熱帯魚を飼ってきたし、暇さえあれば図鑑を眺めていたのだから、こんな「子ども向け」のワークシートなんかに少しでも戸惑うわけにはいかない。そう思って水槽の中のシードラゴンをじっと見つめた。意外に横長の、波打つ背びれがはっきりと見えたのが心地好かった。ただ「はっきり見えた」のが心地好かったのではなくて、「“魚に詳しくて背びれの位置もだいたい想像がついている自分には”はっきりと見えた」という自負が快感だった。打撃の神様川上哲治の「ボールが止まって見えた」の文頭に“打撃の神髄を究めた自分には”が隠されているのと同じことだ(違うのは川上は本当に神様で、自分はただの子どもだったということだ)。背びれが見つからない隣の子のワークシートをちらちらと覗きながら、自信たっぷりに鉛筆に力を込め、太々とした線で背びれを描きこんだ。

担任の砂本先生は私のそういう性格をよく見抜いて、事毎に戒めてくれた。ある時は直接的に、またある時は遠まわしに、根気よく。当時はその戒めすらも「いちいち言われんでも分かってる分かってる、思い上がったらあかんってことやろ」としたり顔に受け止めたつもりになっていたけれど、20年後の今にしてようやく砂本先生の根気のありがたみが分かる。戒めつつも、思い上がりばかり強いくせに簡単に委縮する私への教育者としての優しさがいつも根底にあった。

リーフィーシードラゴンとの初めての出会いはそんな具合で、背びれと自負心に夢中になった結果、その不思議で美しい姿を素直に心に刻むことができなかった。その後も何度か水族館でこの魚を見たけれど、いつも背びれのことばかりがなんだか気にかかる。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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