
(左上)タイリクバラタナゴ Rhodeus ocellatus ocellatus
(右上)ヤリタナゴ Tanakia lanceolata
(左下)ミナミヌマエビ Neocaridina denticulata denticulata
(右下)ギンブナ Carassius auratus langsdorfii
倉敷市の妻の実家近くには三面コンクリート護岸の水路が通っている。海抜の低い土地だから、水害を防ぐために一帯に張り巡らせてあるらしい。流れる先は「溜川」という川だ。
溜川は生き物の豊かな川だと言うけれど、そこへ注ぐ水路は決して綺麗ではない。特に妻の実家のそばでは大型スーパーの目の前なこともあってか、ところどころにゴミや油がひっかかって浮かんでいる。一応水草がなびいているけれど、何やら真っ黒で生きているのか枯れているのかわからない。一見、生き物が棲むのに適しているようには思えない、よくある街中の水路だ。
けれども、夏にはボラの子どもが青灰色の背中を見せて泳ぎ回っているのを見たし、この正月の帰省でも覗き込むと小魚の群れや20センチほどの頭でっかちなドンコが泳いでいくのが見えた。汚れているように見えて、実は環境はいいらしい。小魚たちの正体を知りたくて、ペットボトルで仕掛けを作って沈めるも見事に空振り。それではと岳父に釣り用の大きなタモ網を借りて、同じく帰省中の妹夫婦も巻き込んでパーフェクトな童心で水路に臨む。冷たく透き通った空の下、大型スーパーの目の前で大のおとなが網を手に頭から突っ込みそうな勢いで水面を覗き込んでいるのは、正月2日の風景としてはあまり似つかわしくない。
フナらしき大きめの魚が5、6尾、水草の茂みから飛び出してすぐ下を通り過ぎていく。小魚がキラリと腹をきらめかせている辺りを狙って網でのろのろと不器用に弧を描くと、何度目かで網の中に魚が跳ねた。掬えたことに驚いて手繰り寄せると5センチほどのタナゴだ。艶やかな粘膜に包まれた群青の鱗が整然と並んで、溜め息が出るほどに美しい。器のタナゴに見入っている間に、今度は何かにつけて勘のいい義弟が大きめのフナ、別種のタナゴ、小さなヌマエビを掬い上げる。どれもこれも、街中を流れる水路から生まれたとは思えないような、渋くも鮮やかな色彩だ。
岳父が言うに、水路はコンクリート護岸となった後、一時はドブのように汚くなっていたらしい。それがここ最近は魚が戻ってきているとのこと。市のホームページには、NPOの方々の清掃活動や水質改善の取り組みが紹介されていた。それらが見事に実っていることは生き物たちの姿が示している。
身近に豊かな生き物がいるということのこの嬉しさはいったい何なのか。深呼吸をしたように、体の隅々にまで心地好さが行きわたる気がする。普段の生活で忘れている感覚を、帰省の間に取り戻した。