2014年02月07日

アユモドキ Parabotia curta

Parabotia curta

ドジョウというとニョロリと細長くて水底にじっとしている姿がまず思い浮かぶけれど、実はドジョウにもいろんなのがいる。中でもボティアと呼ばれる一群は、比較的「普通の魚」に近い扁平な体型でよく泳ぐ。少し品揃えが豊富めの熱帯魚店に行けば何種かは見ることができる。

ボティアの多くはインドから中国に生息しているのだけれど、日本にも固有種が一種だけいる。それがアユモドキだ。
こんな名前を聞かされれば誰だってアユによく似た姿を期待する。けれども、図鑑でこの魚を見てもちっともアユに似ていないのが長らく不満だった。この縞模様と体型のどこがアユだと言うのか。…が、成長して縞模様が薄れた個体がスイスイと心地好く泳ぐ姿を見て初めて納得した。確かにアユを思わせる。水面ごしだとさらに見分けがつかないらしい。

このアユモドキの周辺がいま騒がしい。彼らは京都と岡山の計3水系にのみ残された絶滅危惧種なのだが、そのうち京都の生息地が大きなスタジアムの建設予定地になった。十分な保護対策を執るからアユモドキには影響ないとする行政と、再考を求める専門家たち。思いっきり単純化すると、そういう対立が起こっている。

素人考えながら、個人的には「影響ないわけがない」と思う。アユモドキの存続を思うなら、もっともっと慎重を期してほしい。

恐らくこの問題の行方を左右するのは、建設計画がアユモドキの生息環境に悪影響を与えるか否かの評価ではなくて、「なぜアユモドキを絶滅させてはいけないのか」という、より根本的な問いにどういう答えが用意できるか、だ。もしも行政サイドに「たかが小魚、絶滅したところで何とも…」と思われてしまったら、その時点でアユモドキの命運は尽きる。本気で彼らを守るには、彼らが絶滅してはならない理由をはっきりと示して納得してもらわないといけない。でないと、仮に今回のスタジアム建設を乗り切ったとしても、近い将来きっとまた同じような問題が起こる。

考えの深さはさて置くとして、私は「アユモドキを絶滅させてはならない」と思っている。けれども、その理由は…と考えてみると、正直なところよく分からなくなってくる。専門家の方なら生物多様性や学術上の重要度を論拠に説明してくれるかもしれないけれど、それも必ずしも万人に響くわけではないように思う。
もしかしたら、足がかりになるのは理屈ではなく、人間の活動によってこの世から一つの生物種が消えていくことへの不安や悲しみなのかもしれない。それはきっと誰もが多かれ少なかれ心の内に持っているもので、そういった感情こそが時には理屈よりもずっと強い力で人を動かすのではないかとも思うのだ。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: