2014年03月07日

マダコ Octopus vulgaris

Octopus vulgaris

子ども時分の大阪湾の釣りでは、タコ狙いの釣り人をよく見かけた。防波堤のタコ釣りは足で稼ぐ類の釣りだから、竿をしゃくりながらとにかく歩き回る。その姿を見れば狙いは一目瞭然だった。
タコ釣りの仕掛けは面白い。赤やピンクのビニールでできたおもちゃのタコみたいなのに大きな鈎が隠されていて、エサだと思ってしがみつくとそいつに引っ掛けられるという寸法だ。タコを釣るのにタコ型の疑似餌はおかしかろうと思うのだが、どうもこれが彼らの食い気を刺激するらしい。ご丁寧にキャラクターみたいな目まで付いているのが滑稽だった。

仕掛けはさておくとしても、タコにはそもそもユーモラスな印象がある。きっと、真っ赤な顔で鉢巻頭からホカホカ湯気を立てている古典的な茹でダコのイメージのせいだ。
けれども実際のタコは思いがけないほどに獰猛で、獲物と見ると目まぐるしく体色を変えて辺りの景色に身を溶け込ませながら抜き足差し足近づいて、ガバッと腕を広げて一気に襲いかかる。吸盤がずらりと並んだ筋肉質の腕に締め上げられた獲物は、硬いクチバシで毒を注入されて動きを封じられ、そのままバリバリと噛み砕かれる。タコの捕食シーンはYouTubeにもたくさんアップされているけど、いずれもなかなか悪魔的でついつい見入ってしまう。
知能も優れているらしい。エサの入ったビンのふたをひねって開けることができると言うし、護身用に貝殻やココナッツの殻を持ち歩くタコもいるそうだ。タコはイカと違って不気味だ、もし地上の生き物だったらと思うとゾッとする…というような話を、椎名誠さんも昔エッセイに書いていた。

一度だけタコを釣ったことがある。狙って釣ったわけではなく、メバル狙いの仕掛けを上げてみると手のひらより一回り大きいぐらいの小さなタコの腕に鈎が刺さっていた。当時はスレ掛かり(エサに食いついて掛かったのではなく、体の一部がたまたま鈎に引っ掛かった)だと思っていたけれど、YouTubeのタコたちの貪欲さを見れば、あれもエサのエビに飛びついた結果だったんだという気がしてくる。
その小ダコは飼おうと思って持ち帰った。白っぽい色味になって水槽のガラス面にへばりついている、その体の表面に目を凝らしてみると、何かの回路を伝わる電気信号のように細かく目まぐるしく色が変わっている。あまり元気そうな姿じゃないなと思っていたら、翌朝には死んでぐにゃりと横たわっていた。知能の高いタコには耐え難いストレスだったのかもしれない。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 魚の譜
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