2017年02月10日

イソゴンベ Cirrhitus pinnulatus

Cirrhitus_pinnulatus

ゴンベとはすなわち「権兵衛」で、実に味な名前が付いたものだ。

由来は江戸時代の子どもの髪型で、頭の後ろ、「ぼんのくぼ」の部分を少し剃り残す「権兵衛スタイル」から来ているのだという。ゴンベの仲間には背びれ後半の最初の条が長く伸びる種が多く(残念ながらこのイソゴンベは当てはまらない)、その姿を髪型になぞらえたということだ。いやちがう、背びれ後半の条ではなくて、背びれ前半の棘の先から出ているツンツン(これはイソゴンベにもある)を権兵衛スタイルに見立てたのだ、とする説もあるようだけれど、いずれにせよ髪型なのは間違いない。

しかし名の由来にそこまで筋の通った定説がありながら、そのことが残念に思えるほど、このゴンベの仲間というのは少し滑稽な人間味に溢れている。「権兵衛」という、とんち話や滑稽話のそそっかしい隣人を思わせる愛すべき響きが、この魚にはぴったりなのだ。たとえばこのイソゴンベの顔を見よ。カサゴやハタの類と同じく磯に暮らす貪欲な肉食魚でありながら、彼らのようなシャープな獰猛さは微塵もない。加えてこのズングリとした体型に、つるりと滑らかな体表の質感。この魚を見るといつも、よく食べるぽっちゃりした小学生を思い浮かべてしまう。

イソゴンベに限らない。シュノーケリングでも水族館でもよく見かけるベニゴンベやメガネゴンベ、ホシゴンベたちは、やや開けた空間に面した岩やサンゴの上で胸びれをぐいと突っ張らせ、小さな姿で精一杯胸を張って「下界」を眺め下ろす(その姿が鷹を思わせることから英名はhawkfishというのだと、数年前のさかなクンさんのトークショーで知った)。そして突然慌てたように駆け下りたかと思うと、また岩やサンゴの合間を縫って同じお気に入りの場所に戻ってくる。とぼけた顔と、その動きの少しバタついた慌ただしさは、いかにも人間くさい。

だから「権兵衛」というのも、姿からの見立てという「論理的」な名付けではなく、昔の漁師たちがこの魚の人間くささへの親しみを込めていつしか名付けたもの、というようなストーリーであってほしかった。「名無しの権兵衛」という言葉もあるくらいだし、この名前の持つ独特な匿名性はそんなストーリーによく似合う。表向き定説に従いつつも、この異説にも可能性があると僕は密かに思っている。


 
posted by uonofu at 18:00| Comment(0) | 日記