2016年11月04日

“メッキ”四種 Young trevallies

young_trevallies_161104
(上から)ギンガメアジ Caranx sexfasciatus / ロウニンアジ C. ignobilis / カスミアジ C. melampygus / オニヒラアジ C. papuensis

この平たい魚たちはいずれも南方系の大型のアジの仲間で、幼魚時にはその金属的な光沢から「メッキ」と総称されている。夏には黒潮に乗って関東の海まで(茨城県の大洗でもこの魚を見た)やってくるから、大阪で釣りをしていた子どもの頃には、本州に居ながらにして南の海の魚に出会えるということで憧れの対象だった。

石垣島では港でも砂浜でも、海の魚がいるようには思えない小さな川でも、この魚たちに出会うことができる。メッキはあくまで総称であって、ここに描いたもの以外にもそう呼ばれる種はいるのだけれど、まずはこの4種がメジャーどころと言って差し支えない。

4種の幼魚の見分けは以外に難しく、釣りをしているとよく悩まされる。精確には形質をきちんと見定める必要があるのだけれど、数見るうちになんとなく「雰囲気」の違いは分かってきた。人ごみの中で知人の顔を見つけられるのと同じことだ。「左右の眉の始点と鼻の頂点を結ぶ直線の長さは、左目の幅の1.4倍で」などと精確に確かめなくとも総体を見てその人物だと判断がつくが、「他人の空似」には対処できない…その程度の確かさでの見分けはつくようになった。

まず、「ギンガメアジとロウニンアジ」「カスミアジとオニヒラアジ」はそれぞれ似たもの同士だ。

前二者の光沢には細かなザラつきがある。たとえるなら包丁の砥ぎ面のようなギラリとした質感で、鱗の並びにかすかな乱れがあるのかどうなのか、その光沢の中に一粒一粒の鱗の光が見える。そして口が大きい。これはあくまで僕の経験上だけれど、ギンガメアジとロウニンアジは口の後端が目の中心線の直下か、それより深くまで至っている。

一方の後二者、カスミアジとオニヒラアジの光沢は表面に透明感があり、薄い箔のような…やや極端に言えばタチウオのようなつるりとした質感に見える。そして鱗の一粒一粒は目立たない。口は小さくやや前に突き出しており、後端は目の中心線より前方で終わっている。

ここまでで2グループに分けられれば、あとは二者択一なのであまり悩まずに形質を含めた総体で判断がつく。
●ギンガメアジ…体は細長くてシャープ、えらぶた上方の側線開始地点あたりに黒点あり、腹びれ・尻びれ・尾びれ下葉は黄色く色づき、尾びれの後端は黒く縁取られ、ぜいごは黒っぽい
●ロウニンアジ…体は体高があり、目から口の距離が長く、ぜいごは特に色づかない
◯カスミアジ…胸びれが黄色く、背びれ・尻びれがうっすらと青みがかる
◯オニヒラアジ…尻びれ・尾びれ下葉が黄色く、えらぶた上方の側線開始地点あたりに白斑あり

こうしてぱっと見である程度の確度をもって見分けがつくようになって、この仲間と出会うのがますます楽しくなっている。


 
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2016年10月28日

オジロバラハタ Variola albimarginata

Variola_albimarginata

初めて船の上からジギングというものをした。
金属の塊そのものの重たいルアーを、ただ沈めてはぐるぐる巻き上げる釣りだ。つまりルアーは垂直方向に泳ぐわけで、そんな不自然な動きで本当に釣れるのかと思うのだけれどこれが滅法釣れるらしい。
船は石垣島で潜水漁をされる伝説的な海人の方のもの。潜って魚を突くのには僕はとても付いていけないので、船上で待っている間に釣りをさせてもらうことになったのだ。

船長に「いいぞ」と言われて、海面にドボンとルアーを落とす。多少の波はあるけれどもいたって穏やかな海で、ずっしり重いルアーは透き通った水の中を一直線に海底へ…と思いきや、流されてどんどん船から遠ざかっていってしまう。海水という、この透明で巨大な塊のエネルギーを感じつつ、どうやらルアーが着底したと見るや今度は必死に竿を煽って巻き上げる。なにしろゴツゴツと複雑に発達したサンゴ礁にルアーを投げ入れるのだから、うかうかしているとすぐに岩に引っかかってしまう。本当は着底するかしないかのところで巻き上げ始めたいのだけれど、うんと遠くまで斜めに流されているので深さの想像がつかない。

そんな海の底から、ゴツン、ブルブル、というアタリが伝わってくる。何がかかったのだろうとワクワクしながら巻き上げると、深みのあるウルトラマリンブルーの海面にポカリ、と朱い魚体が浮かぶ。オジロバラハタだった。船長に見せると「血抜いてボックス入れとけ」とキープ指令が出たのでその通りにし、上機嫌で再びルアーを沈めるとしばらくしてまたゴツン。この辺りに群れているらしい。海底から少し浮き上がったところで、頭をやや上向きにして獲物の小魚を睨みつつ泳いでいる群れの姿が目に浮かぶ。立て続けに釣り上げると、船長が早口の島言葉で「また釣ったんか、プロだな」と褒めてくれた。

船上でのお昼は、オジロバラハタたちを味噌汁に。個体によってはシガテラと呼ばれる中毒を引き起こす毒を持ちうる種なのだけれど、海人たちはどういう個体が危ないのかをよく知っているらしい。「食中毒の可能性のあるバラハタが築地に流通」という全国ニュースの「まあ、こわ〜い!」感は、無理もないことなんだけれど少し滑稽に見える。

港へ戻って水揚げしている間に、船主の海人の方が「おい、持ってけ。自分で釣ったんだから余計うまいだろ」と味噌汁の残りを持たせてくださった。ビニール袋はわざわざ二重になっていた。翌朝、また一段と味わい深くなった残りの汁と身を、美味しく食べた。


 
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2016年10月21日

ツチホゼリ Epinephelus cyanopodus

Epinephelus_cyanopodus

およそひと月半ぶりに海に入った。

夏は長袖に半海パンという楽な格好で泳いでいたのだけれど、8月後半にクシクラゲの類が大量発生しているのに出くわして、肌を露出して泳ぐのが怖くなった。そこでさっそくウェットスーツをオーダーしたのだけれど、その納品を待つあいだに、海に入るとき必要な「ちょっとした思い切り」を失ってしまっていた。そのまま9月をまるごとすっ飛ばし、重たくなっていた腰をようやく上げたのは10月に入ってのことだった。

海の様子は変わっていた。

夏場の浅瀬はいかにも有機物の多そうな、常に白く靄のかかったような濁り方をしていて、そのせいで風景はすべて白緑(びゃくろく)がかって見えたのだけれど、水は透明度と青みを取り戻していた。春に見た色だった。

魚が大きくなっていた。同じ個体に出会っているわけでもないだろうけど、コインのように小さくキラキラしていたアイゴの子たちは桜の葉っぱぐらいになっていたし、岩陰で用心深くこちらを見ながらホバリングするシロブチハタの子にも肉食魚らしい逞しさが出てきていた。

そして大きなサンゴの塊が点在する砂地で、他の魚の間をグンと駆け抜けたひときわ立派な魚影が、このツチホゼリのものだった。
春に見たのは手のひらよりふた回りほど小さな個体で、スズメダイの仲間に擬態しているのかなと思うような可愛げのある泳ぎ姿だったのが、すっかり怖いもの知らずの若者顔になっていた。

口もとの食べよごしみたいな斑紋が可愛らしい。ハタの仲間にしてはよく泳ぎ回り、こちらを気にして目をキョロキョロ動かすのがどこか人じみている。群青がかったシアンの青みに白をたっぷりと含む体色は、案外ほかの魚には見かけない。レモンイエローの尾びれをキュッと締める黒のエッジが、海底の白砂を背景によく目立つ。

その姿はとても目に心地好く、距離を保ってしばらく眺めたいと思っていたら、スイと呆気なく泳ぎ去ってしまった。

釣り上げた魚を手のひらに載せて、陽の光の下で眺めるというのは、魚をこちらの(人間の)フィールドで見るということだ。落ち着いて細部まで見ることができる。
けれども魚たちのフィールドである海の中では、自由に泳ぐ魚たちを視界に捉え続けるのも一苦労。でもだからこそ、一瞬一瞬の煌めきは、じっくりと眺めたとき以上に強烈に脳裡に焼き付く。ツチホゼリの泳ぎ姿は、その日久しぶりに見た海中の風景の中でもとりわけ印象に残った。


 
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2016年10月14日

オオクチユゴイ Kuhlia rupestris

Kuhlia_rupestris

その名の通りの、肉食魚らしい大きな口。
けれども肉食魚にとって口が大きいということは、より大きな獲物を飲み込めるということでごく当然に理に適っているから、けっして珍しいものではない。ではなぜこの魚がわざわざ「オオクチ」と名付けられたのかと言えば、それは鋭角的な吻がことさら印象的だったからではないだろうか。初めてこの魚を手にしたとき、三角形のシャープな鼻先から口がパックリと裂けるさまは「おお、確かにオオクチだ」と思わせるに十分な説得力だった。かっこいい!と、少年のような気持ちになった。

南方系の魚だから、石垣島へやってくるまではとんと縁がなかった。
描いてみて、なるほどこれは今までに知らなかった体型だと思った。スズキやオオクチバス(「オオクチ」ネームの代表格)といった肉食魚たちと基本的な形状は共通しつつも、異なる点を具体的に言うならば「尻びれの開始位置が前めで接地面(?)が長いため、体の後半に平たいボリュームがあるように見える」。この微妙な違いにどういう意味があるのかはわからないけれど、この魚がうっすらと濁ったマングローブ林の河口を泳ぐ姿を思い浮かべると、確かに絵になる似つかわしさがある。


 
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2016年10月07日

タメトモハゼ Ophieleotris sp.1

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数年前に新江の島水族館へ行ったとき、「今上天皇のご研究」コーナーでこのタメトモハゼを見た。優に30センチは超す大型個体で、ひれや体の輪郭に老成魚特有のデコボコした揺らぎがあるのがまた見事だった。ハゼだというのにこの巨体と鮮やかな色彩、日本にいるものとは分かっていても何となく自分には縁遠いものだと思っていた。

それが石垣島へやってきて半年、自らの手で釣ることになるとは当然ながら当時知る由もない。島で長らく魚と接し、ポイントや釣法を知り尽くしたOさんに「ではここでどうぞ」と言われるがままに仕掛けを沈めるのと、竿先がグイと引き込まれたのとはほぼ同時だった。不必要に長い渓流竿を不器用に振り回して何とか引き上げたのは、さすがに今上天皇コーナーの老成魚クラスとは言わないけれど、発色の点では決して引けを取らない立派なサイズのタメトモハゼだった。

針を飲ませてしまったこともあり、早くリリースしないとと焦る僕にOさんが「けっこう強い魚ですよ」と声をかけてくれたので、安心してじっくり眺めることができた。鱗の黄色が印象的な魚だけれど、実際に手に取ってみると「地色」の青磁色に透明感のあるのがとても美しい。その上に並ぶ黄色と、臙脂から煤竹色に渡る暗点とが、どうも八重山のミンサー織を思わせる。まさかミンサー織の起源がこの魚にあるとは思わないけれど、自然と文化とがリンクするように思えるこんな偶然は、見ていて気分がいい。


 
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